新監督が目指すスタイルとは――
昨年にあれほど機能した松田サッカーが、これほどに苦戦した理由は複数ある。
ひとつは前述した補強バランスの悪さだ。昨季の序盤は、秋野央樹、ルアン、富樫敬真、フレイレ、徳重健太といった選手中心のポゼッションで戦い、途中から米田隼也、加藤大、江川湧清、鍬先祐弥、都倉賢といった選手中心の堅守速攻へ方針転換。さらに相手のスカウティングが進んできた終盤は植中朝日、加藤聖、ウェリントン・ハットといった選手が台頭している。実質2.5チーム分と言えるほど戦力的な幅があったのだ。
だが、昨年のレギュラー格だったウェリントン・ハット、毎熊晟矢、名倉巧の3人をはじめ、ポゼッションを志向した選手の多くが去り、堅守速攻に適応する選手主体となった結果、今季の戦力の幅は狭まった。特に守備の約束事を徹底できないウェリントン・ハットを守備でフォローしつつ、10アシストを記録した毎熊の離脱は大きく響いた。
もともとポゼッションを志向していたチームが守備の約束事を取り入れるより、守備のチームがポゼッションを高めることは難度が高い。守備には約束事があるため、規律を持ち込めばある程度は理論で対応できるからだ。だが個やひらめきといったものに左右される攻撃はうかつに持ち込めば守備の約束事を壊すこともある。
「新戦力が多いなかで試行錯誤の前半戦だったと思います。個の力は強いと言われるチームなんですが、個の力を中心にチームを作ったら勝てると思ったし、スタイルを変えないと対策されると思ったんですが、安定した力を発揮できなかった。そこは誤算でしたね」
後に前監督も認めたとおり、チーム状態や戦術と個の融合を見誤った結果、不安定な土台の上に攻撃を積み上げることになったチームは、昇格レースを牽引するような思うような結果を残せずにいた。前監督も3月末頃から守備の再編に取り組んだが、故障者の問題もあって得点力不足に陥り、連戦のため修正に時間をかけられないという不幸が重なった。
ひとつは前述した補強バランスの悪さだ。昨季の序盤は、秋野央樹、ルアン、富樫敬真、フレイレ、徳重健太といった選手中心のポゼッションで戦い、途中から米田隼也、加藤大、江川湧清、鍬先祐弥、都倉賢といった選手中心の堅守速攻へ方針転換。さらに相手のスカウティングが進んできた終盤は植中朝日、加藤聖、ウェリントン・ハットといった選手が台頭している。実質2.5チーム分と言えるほど戦力的な幅があったのだ。
だが、昨年のレギュラー格だったウェリントン・ハット、毎熊晟矢、名倉巧の3人をはじめ、ポゼッションを志向した選手の多くが去り、堅守速攻に適応する選手主体となった結果、今季の戦力の幅は狭まった。特に守備の約束事を徹底できないウェリントン・ハットを守備でフォローしつつ、10アシストを記録した毎熊の離脱は大きく響いた。
もともとポゼッションを志向していたチームが守備の約束事を取り入れるより、守備のチームがポゼッションを高めることは難度が高い。守備には約束事があるため、規律を持ち込めばある程度は理論で対応できるからだ。だが個やひらめきといったものに左右される攻撃はうかつに持ち込めば守備の約束事を壊すこともある。
「新戦力が多いなかで試行錯誤の前半戦だったと思います。個の力は強いと言われるチームなんですが、個の力を中心にチームを作ったら勝てると思ったし、スタイルを変えないと対策されると思ったんですが、安定した力を発揮できなかった。そこは誤算でしたね」
後に前監督も認めたとおり、チーム状態や戦術と個の融合を見誤った結果、不安定な土台の上に攻撃を積み上げることになったチームは、昇格レースを牽引するような思うような結果を残せずにいた。前監督も3月末頃から守備の再編に取り組んだが、故障者の問題もあって得点力不足に陥り、連戦のため修正に時間をかけられないという不幸が重なった。
「サッカーは人生を投影したようなスポーツ。あまりにも思うようにいかないことが起こる。だから、世界で一番愛されているスポーツなんじゃないですかね」
監督交代発表の2週間ほど前、囲み取材の中で前監督はそう語った。昨シーズン、クラブの苦境を救った功労者の2シーズン目は5位だったが、首位争いに絡めず、クラブが想定していた結末とはならなかった。
新たにチームを率いるファビオ・カリーレ監督は、コリンチャンス、サントス、アル・イテハドなどブラジルや中東で指揮を執り、2017年シーズンにはコリンチャンスでカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)の優勝も経験。基本とするシステムは4-2-3-1や4-4-2のほか、4-2-4や3バックで戦ったこともあり、コリンチャンス時代は、4-2-3-1のシステムから堅守速攻でタイトルを獲得しており、長崎のスタイルが劇的に転換されることはないだろう。
一方、ポゼッションにも対応できるとされていることからチーム状態が安定してくれば、堅守速攻とポゼッションの併用に向かうと思われる。またポルトガル語で日常会話ができた前監督も外国籍選手との意思疎通は十分にできていたが、カリーレ監督就任でよりカイオ・セザール、エジガル・ジュニオ、カイケ、クリスティアーノといったブラジル人選手との意思疎通はスムースになるはずだ。南米での実績があることで、調子に波があるビクトル・イバルボにも良い刺激を与えられる期待もある。
ビザの都合などでカリーレ新監督が公式戦の指揮を執るのは7月の甲府戦からで、それまでのリーグ戦2試合と天皇杯3回戦は長崎U-18の原田武男監督が暫定的に指揮を執るという。新監督就任までの間、前監督に指揮を執ってもらうことも可能だったかもしれないが、功労者の前監督に交代前提で指揮権を委ねたくはないというクラブの側の敬意と配慮の表われとも言えるだろう。原田監督はアカデミーダイレクターだった前監督と一緒に仕事をする機会も多かったことから、前監督のスタイルをベースにしながら、新監督へバトンを引き継いでくれるに違いない。
10月でシーズン終了となる今季では、カリーレ新監督が今シーズン戦える時間は実質4か月となる。7月はベガルタ仙台、アルビレックス新潟といった上位との直接対決も待つ。ここで敗れればJ1昇格の可能性はかなり低くなる。チームは上位追撃を目ざしFWを軸に夏の補強を行なうと予想され、カリーレ監督の意向次第ではさらなる選手獲得を進めることもあり得る。カリーレ監督にとってはリーグを戦いながらチーム再編を進めるという難しいミッションへのチャレンジとなるが、指揮官交代が決断された以上、与えられた条件の中で長崎は立て直しへ全力を注がねばならない。
今回、5位という順位をどう判断するのか。状況的に判断が難しいなかで、あくまでもJ1を目指すために監督交代という苦渋の選択を先延ばしにしなかったクラブの決断力は評価したい。だがあくまでもその成否が判断されるのは、新監督の出す結果にかかっていることは忘れずにいたい。
取材・文●藤原裕久(サッカーライター)
監督交代発表の2週間ほど前、囲み取材の中で前監督はそう語った。昨シーズン、クラブの苦境を救った功労者の2シーズン目は5位だったが、首位争いに絡めず、クラブが想定していた結末とはならなかった。
新たにチームを率いるファビオ・カリーレ監督は、コリンチャンス、サントス、アル・イテハドなどブラジルや中東で指揮を執り、2017年シーズンにはコリンチャンスでカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)の優勝も経験。基本とするシステムは4-2-3-1や4-4-2のほか、4-2-4や3バックで戦ったこともあり、コリンチャンス時代は、4-2-3-1のシステムから堅守速攻でタイトルを獲得しており、長崎のスタイルが劇的に転換されることはないだろう。
一方、ポゼッションにも対応できるとされていることからチーム状態が安定してくれば、堅守速攻とポゼッションの併用に向かうと思われる。またポルトガル語で日常会話ができた前監督も外国籍選手との意思疎通は十分にできていたが、カリーレ監督就任でよりカイオ・セザール、エジガル・ジュニオ、カイケ、クリスティアーノといったブラジル人選手との意思疎通はスムースになるはずだ。南米での実績があることで、調子に波があるビクトル・イバルボにも良い刺激を与えられる期待もある。
ビザの都合などでカリーレ新監督が公式戦の指揮を執るのは7月の甲府戦からで、それまでのリーグ戦2試合と天皇杯3回戦は長崎U-18の原田武男監督が暫定的に指揮を執るという。新監督就任までの間、前監督に指揮を執ってもらうことも可能だったかもしれないが、功労者の前監督に交代前提で指揮権を委ねたくはないというクラブの側の敬意と配慮の表われとも言えるだろう。原田監督はアカデミーダイレクターだった前監督と一緒に仕事をする機会も多かったことから、前監督のスタイルをベースにしながら、新監督へバトンを引き継いでくれるに違いない。
10月でシーズン終了となる今季では、カリーレ新監督が今シーズン戦える時間は実質4か月となる。7月はベガルタ仙台、アルビレックス新潟といった上位との直接対決も待つ。ここで敗れればJ1昇格の可能性はかなり低くなる。チームは上位追撃を目ざしFWを軸に夏の補強を行なうと予想され、カリーレ監督の意向次第ではさらなる選手獲得を進めることもあり得る。カリーレ監督にとってはリーグを戦いながらチーム再編を進めるという難しいミッションへのチャレンジとなるが、指揮官交代が決断された以上、与えられた条件の中で長崎は立て直しへ全力を注がねばならない。
今回、5位という順位をどう判断するのか。状況的に判断が難しいなかで、あくまでもJ1を目指すために監督交代という苦渋の選択を先延ばしにしなかったクラブの決断力は評価したい。だがあくまでもその成否が判断されるのは、新監督の出す結果にかかっていることは忘れずにいたい。
取材・文●藤原裕久(サッカーライター)