現地で取材するスポーツライターの熊崎敬氏が、南米の熱き戦いをレポートします。
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【コパ・アメリカ2015】
グループA
○チリ 2-0 ●エクアドル
[得点者]67分:ビダル(PK)、84分:バルガス
エクアドルとの開幕戦は2-0の順当勝ち。悲願の初優勝に向けて、開催国チリが好スタートを切った。
私はいま、スタジアムから帰ってきたばかりの宿で原稿を書いているが、通りのあちこちからお馴染みの掛け声「チチチ、レレレ、ビバ・チレ!」が聞こえてくる。
昨年のブラジル・ワールドカップで出会ったチリ人たちは、「来年のコパでは頂点に立つんだ」、「悲願の初優勝を地元で飾るんだ」と意気込んでいたが、この勝利に国中が酔いしれているようだ。
もっとも結果は十分だが、内容は快勝には程遠かった。
前半から彼らはエクアドルを圧倒し、敵陣で細かくパスをつなぎ続けた。前線がダイナミックにポジションチェンジを繰り返し、右から、左から、そして中央から果敢にエクアドルの懐に潜り込む。
だが、攻めている割にチャンスが生まれない。これはチリが悪かったのではなく、エクアドルの出来が良かったと考えるべきだろう。
真っ赤に染まった観客席の中で、黄色は数えるほど。そんな敵地でエクアドルはしたたかに戦った。
チリは上手くて速く、よく走るが、彼らが狙うゴールは動くわけではない。そう割り切ったエクアドルはゴール周辺に隙間なく人垣を築き、チリの攻撃を受け止めた。ボールを奪っても逆襲に出るのは2、3人。攻撃は二の次、とにかく無失点で終えることに全精力を傾け、狙い通りに前半を0-0で折り返す。
後半になると、エクアドルが徐々に攻め始める。だが、これはチリにとって都合がよかった。前半、つなぎに溺れた感のある彼らは後半立ち上がり、突破力に長けたバルガスを投入。撃ち合いになって前線にスペースが生まれたことで、この交代が生きることになった。
スタジアムを隙間なく埋めた5万人、そしてチリ中の人々が待ちわびた瞬間は67分に訪れた。
サンチェスのクロスを受けたビダルがペナルティエリア内で引っかけられ、PKを獲得する。このチャンスをビダルが確実に決めると、スタジアムは大騒ぎになった。反対に「やればできる!」と叫んでいた、数えるほどのエクアドル人は押し黙る。
苦しみながら先制したチリは、その後もエクアドルの鋭いカウンターに手を焼き、決定的なヘッドがバーに救われる場面もあった。
だが84分、敵のミスからサンチェスが仕掛け、最後にバルガスが左足で逆サイドのネットを揺さぶる。これで勝負は決まった。
結果は出たが、課題は残る。チリにとっては、そんな開幕戦だった。
ワールドカップで証明したように、スペイン、オランダ、ブラジルといった格上と撃ち合いを演じると、チリは素晴らしいプレーを見せる。挑戦者のいい部分が前面に出る。だが格下に守られると、簡単にはいかないようだ。
後半、焦れ始めた大観衆が文句を言い始めるとともにミスが相次いだように、大観衆の声援が重圧に変わる可能性も捨てきれない。
始まったばかりのコパ・アメリカは、チリの精神力が試される3週間になるかもしれない。
取材・文:熊崎敬