東京五輪開催でJリーグは一時中断。その間、各チームは戦力補強やミニキャンプ実施など、再開後に向けて準備を進めている。五輪後はいかなる戦いを見せてくれるか。ここでは、J２のV・ファーレン長崎を取り上げる。

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「想定外」。中断前の状況はその一言に尽きる。

　吉田孝行新監督の下で攻撃的なサッカーを志向したチームは、主力の不調と守備の崩壊で下位に低迷。５月に吉田監督を解任し、アカデミーダイレクターだった松田浩氏に指揮を委ねた。８年ぶりの現場復帰となった松田監督は攻守の約束事を整え、状態の良い選手の起用を徹底。シンプルながらも守備をベースとした手堅いスタイルで、ベンチ入りした13節以降の11戦で８勝２分１敗の快進撃を披露し、一時は絶望的と思われたJ１昇格が見える位置（８月５日時点で８位）までチームを押し上げた。

　中断前にどうにか立て直しに成功した長崎だが、すでに監督交代という大なたをふるっているため、中断期間は変化よりも継続が基本路線だ。中断期間の最初に５連休のオフで選手をリフレッシュさせた後は、シーズン中の就任で不足がちだった「トレーニングやミーティングにじっくり時間を割ける期間（松田監督）」として、監督がまだ積み上がっていないと指摘する守備の細かい修正と、得点力向上に必要な選手の判断力や個性を引き出すことに力を入れた。

「これまでは私が戦い方を指示して、選手にアジャストしてもらっていたが、ここからは臨機応援に対応して、創造性を発揮してもらう（松田監督）」という方針だ。
 

　夏の補強に関して監督は、現有戦力を中心に戦えると考えており、必ずしもその必要性を感じていないという。戦列を離れている亀川諒史、秋野央樹らが故障から戻るという計算もあるようだ。クラブとしては、手薄なポジションのカバーや、個で勝負できる選手のピンポイント補強を検討しているとされるが、チームバランスを崩すような大補強とはならないだろう。

　チームのベースを変えない以上、ミドルブロックからのプレスをベースとした守備や、サイドで裏を突く、あるいは前線のターゲットにボールを預ける攻撃は再開後も不変だ。そのシンプルな戦い方ゆえに、相手に対策を打たれる懸念や、２点目を奪いきるための攻撃の次の一手を欠くといった不安要素は残る。だがレベルの高い選手がシンプルながらも徹底してスタイルを貫く強さは、中断前に証明している。何より、都倉賢、毎熊晟矢、ウェリントン・ハット、玉田圭司らそうそうたる顔ぶれは揃っている。

　リーグ序盤の低迷のため、上位陣が失速しない限りJ１昇格が厳しいという現実はあるが、終盤に上位陣が崩れるようなことがあれば、逆転でのJ１昇格という想定外を達成する力はある。

取材・文●藤原裕久（サッカーライター）

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