最高の形で締めくくったシャビ、人目を憚らず涙を流したピルロ。
1990年代以降で最強の司令塔は誰か――。
ジネディーヌ・ジダンのような攻撃的MF色の強いタイプを除けば、多くの人がアンドレア・ピルロとシャビの名前を挙げるに違いない。
【ゲームPHOTOギャラリー】バルサ 3-1 ユーベ
イタリア人はピルロ、スペイン人はシャビこそが最強だと言い張る。他の国の人間に聞いても、返ってくる答はおそらく半々だろう。好みの問題だ。
ピルロが79年生まれ、シャビが80年生まれの同世代。ユース時代からクラブと代表で何度もしのぎを削ってきた。
ピルロは言う。
「イタリアとスペインのサッカーは根本から違うけど、僕はシャビを限りなく高く評価している。“同業者”として心から尊敬しているよ。栄光の時代を築いたバルサとスペイン代表の指揮者だった」
シャビもこう返す。
「ピルロのプレーにはいつも惚れ惚れしてしまう。僕は彼のファンなんだ。あのポジションでピルロ以上の才能を持つ選手は、世界でも他に存在しないと思う。サッカー界に多大な影響を与えた選手だよ」
最終ラインの手前にどんと構えるピルロと、その5~10メートル前が主戦場のシャビ。ポジションこそ若干異なるとはいえ、共通点は少なくない。
卓越したビジョン、それを具現化する完璧なテクニック、ピッチを俯瞰しているかのような視野の広さ、そしてなにより、味方だけでなく敵さえも意のままに操ってしまう圧倒的な支配力。司令塔としての能力は、ともに突出している。
自陣深くからでも一気にゴールチャンスを生み出すピルロの「タッチダウンパス」は、手数をかけずにフィニッシュに持ち込むカルチョの、ゴール前の密集地帯を貫き通すシャビの精緻なスルーパスは、ショートパスで崩しきるバルサ型ポゼッションサッカーの、まさしく象徴だった。
しかし今シーズン、ピルロとシャビはともに苦しんだ。ピルロはボールロストが極端に増え、シャビは出場機会そのものが大幅に減った。ひとつの時代の終焉が刻一刻と近づいているのは、誰の目にも明らかだった。
シャビは今シーズン限りでのバルサ退団とカタールのアル・サッドへの移籍を発表し、ピルロはユーベ退団とMLSへの参戦が囁かれるなか迎えた、チャンピオンズ・リーグ決勝。最強の司令塔対決のラストマッチとして、これ以上ない舞台が整った。
スタジアムでのスタメン発表時、ユーベの選手名がアナウンスされる度に、バルサのファンは激しいブーイングを浴びせた。
それが、ピルロの時だけはバルサ側からも少しだけ拍手が起こった。あのペップ・グアルディオラがかつて「ピルロこそが最高のMF」と評した通り、その才能と実績にはバルサのサポーターも一目置いているのだ。
先発したそのピルロは、サラリと敵をかわすいつもの姿を時折見せた。しかし、決定機に繋がるパスはなく、ボールロストも少なくなかった。
77分から出場したシャビは、いつものように首をしきりと振って周囲を観察していた。しかし、数年前は連発していたキラーパスは1本もなかった。
試合は3-1でバルサが勝った。
シャビは3冠という最高の形で愛するチームでの最終戦を終えた。
「最高の夢を見たって、これよりも幸せにはなれないだろう。言葉にできない。とにかく最高だよ」
ピルロは試合終了のホイッスルが鳴ると、涙に暮れていた。イタリアのバラエティ番組が「ピルロを笑わそう」というテーマの企画を作るほど、ポーカーフェイスで知られる男が、人目も憚らず泣いていた。MLSに行くのだろうか。
もしそうなら、ヨーロッパ・サッカー界は2人の偉大な司令塔を一度に失ってしまうことになる。そして誰もが郷愁を覚えるのだ。密集地帯を穿つ精緻なスルーパスと、一気にゴールを陥れるタッチダウンパスへの郷愁を――。
取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト特派)
ジネディーヌ・ジダンのような攻撃的MF色の強いタイプを除けば、多くの人がアンドレア・ピルロとシャビの名前を挙げるに違いない。
【ゲームPHOTOギャラリー】バルサ 3-1 ユーベ
イタリア人はピルロ、スペイン人はシャビこそが最強だと言い張る。他の国の人間に聞いても、返ってくる答はおそらく半々だろう。好みの問題だ。
ピルロが79年生まれ、シャビが80年生まれの同世代。ユース時代からクラブと代表で何度もしのぎを削ってきた。
ピルロは言う。
「イタリアとスペインのサッカーは根本から違うけど、僕はシャビを限りなく高く評価している。“同業者”として心から尊敬しているよ。栄光の時代を築いたバルサとスペイン代表の指揮者だった」
シャビもこう返す。
「ピルロのプレーにはいつも惚れ惚れしてしまう。僕は彼のファンなんだ。あのポジションでピルロ以上の才能を持つ選手は、世界でも他に存在しないと思う。サッカー界に多大な影響を与えた選手だよ」
最終ラインの手前にどんと構えるピルロと、その5~10メートル前が主戦場のシャビ。ポジションこそ若干異なるとはいえ、共通点は少なくない。
卓越したビジョン、それを具現化する完璧なテクニック、ピッチを俯瞰しているかのような視野の広さ、そしてなにより、味方だけでなく敵さえも意のままに操ってしまう圧倒的な支配力。司令塔としての能力は、ともに突出している。
自陣深くからでも一気にゴールチャンスを生み出すピルロの「タッチダウンパス」は、手数をかけずにフィニッシュに持ち込むカルチョの、ゴール前の密集地帯を貫き通すシャビの精緻なスルーパスは、ショートパスで崩しきるバルサ型ポゼッションサッカーの、まさしく象徴だった。
しかし今シーズン、ピルロとシャビはともに苦しんだ。ピルロはボールロストが極端に増え、シャビは出場機会そのものが大幅に減った。ひとつの時代の終焉が刻一刻と近づいているのは、誰の目にも明らかだった。
シャビは今シーズン限りでのバルサ退団とカタールのアル・サッドへの移籍を発表し、ピルロはユーベ退団とMLSへの参戦が囁かれるなか迎えた、チャンピオンズ・リーグ決勝。最強の司令塔対決のラストマッチとして、これ以上ない舞台が整った。
スタジアムでのスタメン発表時、ユーベの選手名がアナウンスされる度に、バルサのファンは激しいブーイングを浴びせた。
それが、ピルロの時だけはバルサ側からも少しだけ拍手が起こった。あのペップ・グアルディオラがかつて「ピルロこそが最高のMF」と評した通り、その才能と実績にはバルサのサポーターも一目置いているのだ。
先発したそのピルロは、サラリと敵をかわすいつもの姿を時折見せた。しかし、決定機に繋がるパスはなく、ボールロストも少なくなかった。
77分から出場したシャビは、いつものように首をしきりと振って周囲を観察していた。しかし、数年前は連発していたキラーパスは1本もなかった。
試合は3-1でバルサが勝った。
シャビは3冠という最高の形で愛するチームでの最終戦を終えた。
「最高の夢を見たって、これよりも幸せにはなれないだろう。言葉にできない。とにかく最高だよ」
ピルロは試合終了のホイッスルが鳴ると、涙に暮れていた。イタリアのバラエティ番組が「ピルロを笑わそう」というテーマの企画を作るほど、ポーカーフェイスで知られる男が、人目も憚らず泣いていた。MLSに行くのだろうか。
もしそうなら、ヨーロッパ・サッカー界は2人の偉大な司令塔を一度に失ってしまうことになる。そして誰もが郷愁を覚えるのだ。密集地帯を穿つ精緻なスルーパスと、一気にゴールを陥れるタッチダウンパスへの郷愁を――。
取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト特派)