家族、幼馴染、仲間の想いを力に変えて。三笘薫の五輪への決意

カテゴリ:日本代表

本田健介(サッカーダイジェスト)

2021年06月23日

「改めて感謝の気持ちを」

東京五輪を控える三笘。日本をメダル獲得へ導くことはできるか。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

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 三笘薫らしい受け答えだった。

 6月22日、東京五輪のメンバー18人に選ばれ、川崎の一員としてACLのグループステージを戦うウズベキスタンからリモートで取材に対応した三笘は、彼らしく舞い上がることなく、一つひとつの質問に的確に答え、大会への熱い想いも口にした。

「すごく身が引きしまる想いです。落選した選手もいますし、18人の狭い枠のなかで、選ばれた身として、その選手たちの分まで頑張らなくてはいけないと思っていますし、メダル獲得に貢献できるように頑張りたいです」

 そう抱負を語った三笘に、改めて名前を読みあげられた瞬間の心境を訊けば、冷静に振り返る。

「自分自身、入るか入らないか、緊張して(会見を)見ていましたし、すごく安堵しました。いろんな方から連絡をもらい、実感しましたね」

 そして笑顔を見せるのが家族の話になった時だ。

「まずは家族に連絡して、入ったということと、『頑張るよ』と報告しました。喜んでいましたし、『頑張れ』と言ってもらえました。改めて感謝の気持ちを伝えましたね」

 ちなみに様々な場で取り上げられているが、幼馴染で、なでしこジャパンに名を連ねる三浦成美(ベレーザ)とも無事に揃って五輪のメンバー選出を果たした。

 幼少期から互いの兄弟を含め、ボールを追い、切磋琢磨してきたふたり。今でもなにかあるごとに励まし合う仲だというが、「一緒に出場できれば家族はすっごく盛り上がりますよね」と三浦が語っていたように、発表を受けて、喜びに満ち溢れているであろう両家の姿を想像すれば、非常に微笑ましい。

 三浦とはメンバー発表後にも連絡を取りあったという。

「昔から一緒にサッカーをやっていて、オリンピックにいけたら良いねと話していたので嬉しいです。頑張ろうと話しました」
 
 一方で三笘は以前から五輪を「自分の人生のなかで大きな大会」と語り、自らの今後のキャリアを左右する舞台と設定してきた。

 新型コロナウイルスの影響による開催の1年延期も三笘にとっては追い風となった。昨季、筑波大からアカデミー時代を過ごした川崎に大卒ルーキーとして戻ると、瞬く間にブレイク。リーグMVPに選ばれるのではないかと噂され、現にルーキーとしては史上4人目となるリーグベストイレブンを受賞した。

 自らに最も合った4-3-3の左ウイングとして、変幻自在のドリブル、華麗なテクニックを如何なく発揮し、リーグ30試合で新人最多記録タイの13ゴールを奪う決定力の高さも披露したのだ。その勢いに押される形でU-24代表でも、キーマンとして期待されるようになったが、予定通り2020年夏に五輪が開催されていれば、プロで半年を過ごした時点だった三笘がメンバーに入れたかは分からない。

 もっとも、リーグでの大活躍とは裏腹に、東京五輪代表では、まだ力の一部を見せるに止まっているように映る。圧巻の突破力、観衆の目を引く美しいパフォーマンスを、果たして本番で見せられるか。

 本人は「本大会では日本がどれだけボールを持てるか、分からないですが、スペースがあるところでも、ないところでもドリブルを生かしたい。自分の特長を出したいです」と意気込む。

 小学2年時にセレクションに合格し、薫陶を受けてきた川崎アカデミー、そして進学した筑波大で、彼にアドバイスを送ってきた指導者たちは、繊細なボールタッチやスピードはもとより、彼の能力として最も評価するのが、吸収力や向上心といった、人間性の部分だ。

「プロでやっていくにはスピード、持久力、体格すべてが足りなかった」と、一時はユースからの昇格を断り、大学進学を選んだが、「否定したり、後悔しても良いことはない。前に進むには自分を肯定し、意義を見つけないといけない」と、後ろを振り返ることなく挑戦を続け、川崎でのパフォーマンスにつなげた。

 五輪本大会でも、もしかしたら予想外の壁にぶつかるかもしれない。それでも、前に進み続ける意志を持ち続ける彼であれば、立ち止まることなく、乗り越える術を見い出すのではないか。

 チームには川崎でともに研鑽を積む、同期入団の旗手怜央、アカデミーの後輩の田中碧、そして、現在は海外でプレーするアカデミーの先輩、三好康児、板倉滉らがいる。彼らの存在は頼もしいはずで、もとより三笘本人は応援してくれる人々、そしてメンバーに入れなかった仲間たちの想いを背負って戦う覚悟である。

 プレッシャーは私たちが想像もできないような大きさであろう。過度の期待を背負わせたくもない。それでも、今の彼には周囲の雑音を、歓声に変える逞しさがあると信じたい。

 なにより大舞台を楽しむかのようにピッチを舞う彼のプレーを目にして、子どもたちは夢を描くはずだ。多くの人たちの心を掴むことができる稀有な選手。“自分らしいプレー”を追求し続ければ、結果は自ずとついてくるのではないか。世界が三笘薫を発見する瞬間に注目したい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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