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ソシエダのエースはトップ昇格後も仲間を応援にユースの試合へ――「最高の選手は、最高のチームプレーヤー」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2021年01月26日

「利己的で節操がない選手は、どれだけ能力が高くても…」

ソシエダの10番を背負うオジャルサバルは、「スビエタ」が生んだ近年の最高傑作のひとりだ。(C) Getty Images

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 チームは選手に対し、忠誠心を求める。集団のために、身を投じられるか。戦い方に陰口を叩いて混乱させたり、見捨てるようにチームを離れたりする選手はごめん被る。

「利己的で節操がない選手は、どれだけ能力が高く見えても、上に行かせない。一人の男として、チームのために戦える選手であることが大事。仲間を思う気持ちだ」

 スペインの古豪、レアル・ソシエダの下部組織「スビエタ」を取材した時、育成責任者ははっきりとそう言っていた。

 姑息さ。それは、サッカーの世界では唾棄すべきものだという。

 チームのためにすべてを擲てるか。指導者は、それを第一にしている。技術など、それぞれが身につけるべきで、戦術や体力は鍛えられる。しかし、仲間を思う心がない選手は、何をしても役に立たない。むしろ、集団を“滅ぼす”ことになる。

 最高の選手は、最高のチームプレーヤーだ。

 今やレアル・ソシエダのエースであるミケル・オジャルサバルは、18歳でトップデビューを飾ったが、自分の試合がない日、わざわざ練習場を訪れ、同年代の選手たちの試合に声援を送っていた。仲間を応援する。その姿勢が身についているのだ。

 それは、人生の縮図かもしれない。
 
 例えば戦国時代は謀略と駆け引きに満ちていたが、忠誠心や共闘精神は重んじられていた。生き残るためには手段を選ばない、というのは下剋上の理論の一つだが、面目を失うような戦いには恥辱が与えられた。例えば主家が滅びゆくとき、こそこそと土壇場で裏切る武将には最低の烙印が押されている。誇りある行動としては受け取られないのだ。

「臣下にしても、裏切る人間」

 その判断で、降伏しても首を討たれた。人間として信頼が置けないのだ。

 一方で、名門・武田家が滅亡に追い込まれた時、土屋正恒という武将は、最後の最後まで主君の供をした。そして山中に立てこもった時、主人が腹を掻っ捌く時間を稼ぐため、崖の上に立ち、片手で弦を持ち、片手で剣を持ち、迫る敵兵に立ちはだかり、斬り続けたという。有名な「片手千人斬り」である。最後は、力尽きて崖から転落した。

 多くの寝返った武将が処断された一方、土屋の一族は庇護された。

「あっぱれな武将、その血筋を守るべきだ」

 その判断だった。息子は長じて取り立てられ、久留里藩3万石の大名にまでなっている。

 いかに生きるべきか。それは、いかに死すべきか、にも通じる。集団の中で誇り高く存在するには、恥ずかしくない生き方が問われる。

 サッカー選手も、常にチームに尽くすべき存在と言える。その柱がなくなったら、評価を失う。忠誠心は共闘精神であり、このスポーツの性質である。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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