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イニエスタ、長谷部、ゴディン…単純なスピードよりも、それを活かす「知性」が尊ばれるべきだ【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年10月20日

一騎打ちが基本の野球とは違う

ともに「サッカー脳」の秀でているイニエスタと長谷部。(C) Getty Images

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 走る。

 日本人は良くも悪くも、スポーツにおいてはそこに焦点を当てるのが嫌いではない。

 サッカーでも例えば、スプリントを何回したか。その数字から何かを導き出そうとする。速く走ることは、多く走ることにもつながり、走行距離もデータとしてしばしば取りざたされる。フィジカルインテンシティーは、誰でもわかるサッカーデータだけに、一つの目安になりやすい。

 しかしながら、データはデータの域を出ず、どこまで行っても参考にしかならないのである。

 連続的に行われるサッカーというスポーツにおいて、スプリントの回数や走行距離は、論拠としては弱い。事実、22人の出場選手で一番走らないリオネル・メッシが試合を決定づける。Jリーグのアンドレス・イニエスタも、今では走行距離は限られ、ほとんどスプリントをしないが、誰よりもプレースピードを操ることができる。
 
 言うまでもないが、データが一つの答えを導き出すことは、スポーツ界で多くの研究と実践で明らかになりつつある。例えば、野球のように停止した状態から場所の決まった、マウンドのピッチャーとボックスに立つバッターという一騎打ちが基本にあるスポーツは、データを採用しやすい。しかし、サッカーでは何億通りもの答えがある。そしてボールを50センチ運んだだけで、景色はがらりと変わり、答えも変わるのだ。

 サッカーは、各選手の判断力に委ねられる。シンプルだが、難しいスポーツと言える。

「考える」

 そこに尽きる。

 例えばディフェンスにおいて、一人のスピードを生かして守る範囲はたかが知れている。欧州のトップレベルのディフェンスは、周りの選手を使うことも、非常にうまい。自らは持ち場を守って、味方を動かす。もしくは自ら鋭い出足で出ることで、背後をケアさせるのだ。

 例えばカリアリのウルグアイ代表DFディエゴ・ゴディンは、ボランチやサイドバック、相棒となるセンターバックとの呼吸に長ける。個人には限りがあって、グループでのディフェンスになるだけに、守備に厚みが出る。それが鉄壁につながるのだ。

 また、ボランチもどれだけ体力があっても、“動きすぎる”と評価されない。自分一人のディフェンスでポジションを留守にして取るよりも、自分はカバーに入って、リスク管理し、味方に取らせる。そのボールを迅速につなげ、味方にアドバンテージを与える。それはチームのかじ取りをする選手のインテリジェンスである。

 日本代表では、長谷部誠がその典型だったし、ロストフに移籍した橋本拳人もその系譜を継ぐ選手だろう。

 単純なスピードが、相手に致命的なダメージを与えることはある。それは一つの武器である。しかし、武器を使う知性こそ、サッカーにおいては尊ばれるべきだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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