いくつかのグループに分かれたサッカーテニスでは、カズのいるグループが一番、賑やかだった。点が決まれば喜び、取られれば思い切り悔しがる。
 
　そしてプレーが途切れたその瞬間、ネット代わりのバーを左右にジャンプ。あるいは、その場で素早く足踏みしてみせる。ほんの数秒の間も決して無駄にせず、己の鍛錬に余念がない意識の高さを垣間見ることができた。
 
　細かい雨が降り注ぐ肌寒い２月26日、午前練習を終え、集まった約70人の報道陣の前に姿を現わしたカズは、シックな赤いスーツに身を包んでいた。
 
「去年が（スーツが）白だったのでね。今年は年男でもありますし、プロとして30年目を迎えるので、ちょっと明るく、22年前にJリーグのMVPを獲った時の赤のスーツじゃないですけど、また初心に戻り、強い気持ちで頑張りたいなという決意かもしれません」
 
　48歳の誕生日を迎えたカズは現在の心境について聞かれると、「気分はそんなに変わらないです」と言う。大勢のメディアが祝福に駆け付けたことに対しては「こうやっていつまでも集まってもらえるように、まだまだ頑張らないといけないなと思いますね。そのためにも活躍して、１試合でも多く出て、今度はスタジアムに集まってもらい、サッカーのプレーの記事を書いてもらえるようにしていきたい」と言葉に力を込める。
 
　プロ30年目の開幕を控え、現在のコンディションは「この３年間のなかで、個人的には一番手応えを感じている」としつつも、まだミロシュ・ルス新監督のチーム戦術とは完璧にフィットしていないようで、「自分自身もはっきり言って良いプレーができていない」。ここまでの実戦を通じても「シュートもほとんど打っていない。他の人を見てもシュートが少ない」と、攻撃面の課題を口にする。
 
　残された時間は短いが、「FWとしてやっぱり、１試合で最低、（シュートを）２～３本。本当はもっと打ちたいですけど、そうやってフィニッシュで終わるような形を、もっと意識して、高めていきたい」と表情を引き締めた。
 
　誰よりもサッカーへの情熱をたぎらせる日本が誇るストライカーは、今も飽くなき向上心を持ち続け、明日のゴールのために走り続けている。
 
取材・文：広島由寛（サッカーダイジェスト）