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クライフやサッキといった名将も苦悩。どんなに理想的な戦術も“運用する”選手がいなければ…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年07月20日

なぜクライフはオファーを断り続けたのか?

サッキのゾーンプレス戦術を支えたDFリーダーのバレージ。(C) Getty Images

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 戦術を決定するのは、采配を振る監督だろう。しかし戦術を運用するのは、ピッチに立つ選手である。

 1980年代、一世を風靡したアリゴ・サッキ監督のACミランは、斬新な戦術を用いていた。オフサイドトラップとゾーンプレス。それはカテナチオ(閂をかけるという意味の守備戦術)が全盛だったイタリアでは、画期的だった。

 今も、サッキは“革命者”の一人に数えられる。しかし、その戦術を可能にしていたのは、選手たちである。

 オフサイドトラップはエキセントリックだった。ラインを上げる行為は、裏を破られるリスクが高い。トラップを破られたら、失点に直結するのだ。

「フランコ・バレージがいなかったら、あの戦術は成立しない」

 それは一つの定説である。

 バレージは不世出のリベロと言えるだろう。全体を俯瞰する能力が突出して長け、ラインを統率する能力も抜きん出ていた。その存在ありきで、ラインを高く設定し、ボールホルダーには必ずプレスをかけ、全体が連動するように鍛え上げられていたのである。バレージに触発されるように、パオロ・マルディーニ、アレッサンドロ・コスタクルタが、極限までディフェンス力を高められた。

 また、ゾーンプレスでボールを奪う戦い方も、それを必ずゴールに放り込む選手がいてこそ、成立していた。マルコ・ファン・バステン、ルート・フリット、フランク・ライカールトという一騎当千のオランダトリオたちが試合を決した。3人は傑出した存在だったのである。

 すべての歯車がかみ合わないと、戦術は運用できなかった。
 
 実際、サッキはイタリア代表監督として、同じ戦いを実現しようとしたものの、いくら合宿を重ねても成熟していない。オランダトリオのような爆発力のある選手がいないと、高いラインで守ることは難しかった。どうしても押し下げられ、必然的にゾーンプレスも不調で、バレージでさえラインを保てなかったのである。結局はリトリートして守りを固め、ロベルト・バッジョの“魔法の杖の一振り”に期待するチームになっていた。

 戦術は、あくまで戦うためのガイドである。道筋は見えても、戦場は不規則で、ピッチに立つ選手が判断するしかない。繰り返すが、戦術を運用するのは選手なのだ。

 例えば、日本でも下部リーグの強化関係者の中に、理想的な戦術、サッカーを目指し、”背伸び”して足を踏み出すものが少なくない。その志は立派とも言えるが、手元にある戦力でできる戦術というのは、実は限られている。聞こえの良い戦術は、手持ちの選手では運用できない場合がほとんどだろう。

 神がかった采配を振ったヨハン・クライフは、1996年春にバルサの監督を解任された後、どのチームも率いていない。オファーはいくつでもあった。なぜ断り続けたのか。

「そのチームでは、私がバルサで成し遂げたような戦いができる選手を望めなかったからだ」

 これが監督と選手、戦術の真実である。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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