• トップ
  • ニュース一覧
  • ハイレベルなCLリバプール戦でアトレティコが覆した“定理”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

ハイレベルなCLリバプール戦でアトレティコが覆した“定理”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年05月13日

リバプールはシーズンハイライトと言っていいほどの出来だった

延長戦で奪ったジョレンテ(左から2人目)のアウェーゴールが勝負の行方を大きく左右した。(C) Getty Images

画像を見る

 兵法における勝利の基本は、「自らを優位な立場に置くこと」にある。例えば古の海戦では、遠くに飛ばせる砲弾と足の速い船で風上に立つことができたら、それは勝利も同然だった。動かしがたい事実がそこにある。アドバンテージを奪われたら、全速力で逃げるしかない。退却戦(リトリート)の中に、勝機を見出す。立場を変えるための取り組みをするしかないのだ。

 戦う前に、勝負の優勢、劣勢はついている。

 戦いには一つの定理がある。例えば、「城を攻め落とすには、守る側の3倍以上の兵力が攻める側に必要」と言われる。なぜなら、守る側は門を閉じ、堀、土塁、柵などに守られるだけに、当然、優位を得る。高所に陣取ることができ、相手を狙い撃ちすることができるのだ。

 サッカーでも、この原理は少しも変わらない。全員で引いて徹底的に守る。そう腹を決めた相手を攻め崩すのは、相当な力の差がないと骨が折れる。無理に攻めるとどうなるか? カウンターを浴びる形になり、攻めるどころか、一敗地に塗れることになるのだ。
 
 もっとも、定理は定理であって絶対的な答えではない。

 例えばチャンピオンズ・リーグ、ラウンド・オブ16の第2レグ、リバプールはアトレティコ・マドリーに0-1で負けた第1レグを挽回するため、飛ぶ鳥を落とす勢いでの攻撃を仕掛けている。右サイドバック、トレント・アレクサンダー=アーノルドが高い位置を取って、何度も好機を作る。守りを固めた敵に、砲弾を浴びせながら、前線は突撃を仕掛けた。結果、彼らは90分間で1-0と勝利し、追いついた形で延長戦に突入した。

 延長戦に入ってからも、リバプールは攻め続けている。そして右サイドからのクロスをロベルト・フィルミーノが合わせ、これは一度防がれるも、それを再び押し込んだ。このリードによって、勝負は決したはずだった。

 しかし一方のアトレティコは失点を食らいながらも、「謹直に守りながらも、攻め手は失わない」という辛抱強い戦いを続けていた。相手がボールを回そうとする瞬間を狙っていたのである。その点、抜け目がなかった。相手GKからの“パス”を敵陣で受けるやいなや、そのボールを受けたMFマルコス・ジョレンテが豪快なミドルシュートを蹴り込んでいる。

 そのアウェーゴールで与えたダメージは、甚大だった。

 攻め続けて目的を達したはずのリバプールは、再度、攻めに出る力はほぼ残っていない。最後のエネルギーを振り絞るも、隙も目立ってしまい、アトレティコに引導を渡されることになった。カウンターから再び、ジョレンテが放り込まれたのだ。そして、最後はアトレティコのアルバロ・モラタがだめ押しのゴールを決めている。

 リバプールの戦いは、実に華々しかった。城にこもる相手を、ほぼ攻め切っている。シーズンのハイライトに近い戦い方だ。

 しかし、アトレティコも一つの定理を現実化した。攻め続ける相手は、必ずどこかで消耗する。そこで逆襲に転ずれば、相手は脆さを出す――。

 コロナ中断前のこの一戦は、きわめてレベルの高い攻防だった。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
【関連記事】
「乾貴士の登場でもはや“鬼門の地”では…」スペイン人記者が見たラ・リーガの歴代日本人選手【現地発】
香川、岡崎、稲本、中田…イングランドでプレーした歴代日本人選手のリアル評は? 英国人記者に訊く【現地発】
「何の断りもなしに僕の番号を…」今季中に起きたバルサの「8つの内紛事件」をスペイン紙が特集
進展しないメッシの契約延長問題。発言力が増したエースにバルサは不安を募らせる…【現地発】
なぜバルセロナはCFが育たないのか? 名手でも適応困難な特異性【小宮良之の日本サッカー兵法書】

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 唯一無二の決定版!
    2月15日発売
    2024 J1&J2&J3
    選手名鑑
    60クラブを完全網羅!
    データ満載のNo.1名鑑
    詳細はこちら

  • 週刊サッカーダイジェスト いざW杯予選へ!
    3月8日発売
    元代表戦士、識者らと考える
    日本代表の現在地と未来
    2026年へのポイントは?
    J1&J2全クラブ戦力値チェックも
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 夏の移籍を先取り調査!
    3月21日発売
    大シャッフルの予感
    SUMMER TRANSFER
    夏の移籍丸わかり
    完全攻略本2024
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ