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シティはなぜマドリーにボールを持たせたのか? 堅牢を破ったペップ戦術の極意【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年04月28日

ビルドアップをせずにロングボールを

このデ・ブルイネ(手前)の活躍もあり、シティが敵地でマドリーに先勝した。(C) Getty Images

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 城を攻め落とすには、“付け入り”という方法がある。攻め手は門をこじ開けるため、虎口に入っていくわけだが、そこで相手が馬出し(城を守る側が、敵に反撃を与えるために作った出入り口)などを使い、攻撃に転じた時、発動させる。相手が門を開けて出てきたところを誘い、それを押し返し、逃げる相手と一緒になって、門に攻め入ってしまうことだ(門を閉めても内側から閂を外し、雪崩れ込ませる)。

 戦国時代末期、羽柴秀吉の北条攻めで、山中城を落とした時はまさにその形だった。槍の使い手が中心になった一団が、付け入ることに成功。これによって、難攻不落と言われた城が、一日足らずであっさりと落ちている。

 サッカーの戦術は、軍事的な視点が多く使われているが、付け入りもサッカーに反映できる。

 人数をかけ、堅く守った砦を落とすことは容易ではない。正面から攻め立てても、最も分厚く守られている。そこでサイドから腹背を突くのが常套手段になるわけだが、優れたアタッカーや阿吽のコンビネーションがないと、それも覚束ない。そうこうしているうちに、攻守のバランスを失い、逆襲を食らって、失点するのだ。

 付け入りは、相手が攻撃に出てくることを前提にし、誘い出す、リスクを生かした戦い方と言えるだろう。

 今シーズンのチャンピオンズ・リーグ、ラウンド・オブ16でマンチェスター・シティは、レアル・マドリーとのアウェーマッチに挑んでいる。彼らはマドリーの牙城を崩すために、あえてボールを預けた。いつものようにバックラインで丁寧にビルドアップせず、GKが何度も長いボールを蹴った。プレッシングでショートカウンターを狙ったマドリーの裏をかき、攻撃を誘っている。
 
 シティはマドリーの攻撃を受けたが、相手を引きこみ、ボールをつなげさせた。危険は承知の上だった。攻め気を強くしたマドリーが前に出てきたとき、シティは防御線を越えて、攻め始める。誘い出し、乱戦に巻き込んでいた。そしてケビン・デ・ブルイネが縦を突っ切り、相手を引き連れ(オフサイドを封じ)、完璧なクロスを折り返す。これをガブリエウ・ジェズスが頭で押し込んだ。

 浮足立ったマドリーに対し、シティは一気呵成となった。左サイドをラヒーム・スターリングが疾風怒濤の仕掛けでダニエル・カルバハルを抜き去る。追走してきたこのスペイン代表DFに、足を引っ掛けられ、エリア内でファウルを得た。このPKをデ・ブルイネが蹴り込み、1-2で勝利したのだ。

 付け入り、は肉を切らせて骨を断つ、という戦い方と言える。一歩間違えると、相手にリズムを与えてしまい、味方はせん滅される。しかし防御ラインを越えて付け入ったら、一気に状況は動き、攻撃側が先手を取れるのだ。

 シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、「将兵を縦横に用い、マドリーという堅牢かつ反撃力もある城を攻め落とした」のである。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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