元日本代表キャプテンの長谷部誠と鎌田大地が所属するフランクフルトは、リーグ戦と並行して昨季ベスト４まで上り詰めたヨーロッパリーグ（EL）に参加中だ。EL本選の初戦では、昨シーズンのファイナリストである、プレミアの名門アーセナルをホームに迎えた。

　前半は好機も多かったが、一瞬の隙を突かれて38分に失点すると、ドミニク・コーアを79分に退場で欠くと、85分、87分に連続失点。最終的に０－３で落とした。ELでのホーム戦としては、フランクフルトにとって16試合ぶりの負け試合となった。

　トップ下でフル出場していた鎌田は試合後、「ホームなので勝ちたかった試合。勝ちに持っていくこともできた試合だったと思うので、チームとしては痛い負け方をした」と悔やんだ。

　いったい、アーセナルとの差は何だったのか。フランクフルトは、試合を通じてスピーディーにペナルティエリア付近までボールを運ぶシーンは多く見られた。しかし、いざペナルティーエリア内では相手CBにことごとく跳ね返されていた。アンドレ・シウバ、パス・ドスト、フィリップ・コスティッチの絶好機も、枠をとらえることができなかった。

「（相手の）ビルドアップに対していいプレスをして、ボールを取ってからのカウンターという形をチームとして狙っていた。良い部分もたくさん出せたけれど、フィニッシュを決め切れるかどうかが、相手と違ったのかなと思う」

　この日の鎌田は、決定機に絡むシーンこそ少なかったが、攻撃の組み立てを円滑にし、チャンスメークで貢献していた。地元紙『Frankfurter Rundschau』は、初めての舞台に挑んだ鎌田について「序盤は試合にうまく入れず、プレーが成功することも多くなかった。だが、時間の経過とともに存在感を増し、何度も好パスを通した」と評している。

　それにしても、アーセナルという強豪クラブと対峙し、鎌田は物怖じせず、負けん気の強さを見せていたのが印象的だ。

「（試合に）来ていない有名な選手もいたけれど、若くてもいい選手が揃っていて、やはり良いクラブだなと。ただ、うちのクラブも負けていない。名前負けしてはダメ。いつものプレーをして、勝てるようにやっていかないとだめな相手だとも思っている」

　フランクフルトは、鎌田は、自分たちの強さを信じている。相手がどんな強いチームであろうとも、その気持ちが揺らぐことはないのだろうと感じさせた。

　それは22日のドルトムントとのリーグ戦にも現われていた。ブンデスリーガ屈指の攻撃力を誇る相手に中２日で対峙したフランクフルトは、立ち上がりから主導権を握られると11分にゴールを許し、44分には１点を取り返すも、66分には再度失点。

　このまま試合は終わるのかと思われた88分、途中出場した鎌田がオウンゴールを呼び込み、昨季リーグ戦２位の強豪からドローをもぎ取るという、劇的な展開だった。

　ドルトムントのトーマス・ディレイニーの足に当たって吸い込まれた鎌田のシュートは、残念ながらゴールという記録はではなくなった。しかし、１アシストというブンデス初のスコアポイントを獲得している。

　27日にはウニオン・ベルリン戦で勝利し（２-１）、10月３日にはヴィトーリア（ポルトガル）とのEL第２節が控える。連戦が続くが、シーズン序盤から過密日程をこなしているフランクフルトには、昨季にも感じられた力強さがある。おそらくこの過酷なプロセスは鎌田を、そしてフランクフルトをさらに強くするに違いない。
 

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筆者プロフィール／中野吉之伴（なかのきちのすけ）

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴　子どもと育つ」（https://www.targma.jp/kichi-maga/）を運営中。