スペインのフットボール界で、新世代の監督の芽が息吹いている。

　ラウール・ゴンサレス、シャビ、シャビ・アロンソが、監督ライセンス講座の全課程の終了を待って、それぞれレアル・マドリー・カスティージャ（２部B＝実質３部）、アル・サード（カタール）、レアル・ソシエダB（２部B）の指揮官に就任した。

　いずれも偉大な栄光に包まれた現役時代の間に、フットボールの監督に必要な知識と戦術理論をそれこそ体内を流れる血流に染み込ませるように貪欲に吸収し続けた。今度はその能力をベンチから発揮する番だ。

　ラウールのフットボール観はブラジルよりもドイツに近い。カスティーリャ人（マドリードを含むカスティーリャ地方の人々）らしい質実剛健さと卓越したインテリジェンス、そしてマドリディスモを骨の髄まで知り尽くす圧倒的な経験値とスキルを併せ持つ。

　シャビは、はたしてそれが成功へと誘うかどうかはさておき、監督として勝利を手にするためにどんな道を辿るかという点においては、チームを指揮する前から分かってしまう。彼のバルサスタイルに対する真摯に向き合う姿勢は、信仰心と何ら変わらない。ヨハン・クフライフやジョゼップ・グアルディオラが引き継いできた伝統を継承、発展することができる万人が認める“一番弟子”だ。
 

　シャビ・アロンソはその２人に比べて、より多様なフットボール観を持っている。その万能性は現役時代にラファエル・ベニテス、マヌエル・ペレグリーニ、ジョゼ・モウリーニョ、ジョゼップ・グアルディオラといった様々なタイプの監督の下でプレーしたことと大いに関係がある。

　持ち前のインテリジェンスを駆使して吸収したその無数に存在する戦術の引き出しの中から自らの価値観と照らし合わせ、どのようにチームを構築していくのか興味は尽きない。

　ピッチで鮮烈な輝きを放ち続けた３人の姿はすでに過去のものになりつつある。しかしノスタルジーに浸っていたのも束の間、彼らは新たなステージへと歩み始めた。指導者に転身した３人が三者三様これからどのような未来を描いていくのか。そのキャリアを、期待感をもって見守りたい。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳：下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ／1955年10月４日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79～84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を２度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、２度のW杯（82年と86年）に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。