• トップ
  • ニュース一覧
  • 【小宮良之の日本サッカー兵法書】戦術を言語化することの罪――「デュエル」「縦に速く」を提唱したハリルホジッチも…

【小宮良之の日本サッカー兵法書】戦術を言語化することの罪――「デュエル」「縦に速く」を提唱したハリルホジッチも…

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2019年05月11日

言葉に囚われると、カオスが生まれる。

「縦に速いサッカー」を持ち込んだハリルホジッチ元日本代表監督。ロシアW杯直前に道半ばで解任された。(C)Getty Images

画像を見る

 アジアカップ、ラウンド・オブ16で日本がサウジアラビアに対して使った戦術は、「Repliegue Intensivo」(スペイン語で集中的撤退戦)と言われる。

 あくまで守備のブロックを作って、粘り強く守る。その上で、間隙を縫ってカウンター、もしくはセットプレーで得点を狙う。結果、日本はCKからのヘディング一発で勝利した。

「身体を張ってよく守った!」

 賞賛の声が出たのは当然だろう。健闘であることは間違いなかった。

 もっとも、戦いを言語化する難しさはある。なぜなら、戦術は言葉で表した時点で、一つの枠にはめられてしまい、自由を失い、実戦性を失うからだ。

 違う選手、違う相手、違う環境、違う状況で使用しても、うまくいくとは限らない。
 
 例えば、日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチが提唱した「縦に速く」、「デュエル」という文言もそうだった。それが意味するところは一つの定石であって、驚くほどのこともない。

 敵陣にスペースが空いているなら、手数をかけずにボールを出す、という当然のことである。デュエルも、1対1の強度を指すが、球際を激しく、という違う言い回しはずっと前から存在していた。

 しかし、言葉そのものに囚われることで、カオスが生まれる。

「縦に速くと言うが、じっくり攻めるべき時もある」

 混ぜっ返すような意見も出て、複雑化してしまう。言葉を説明すればするほど、本質から離れる。

「なぜ、縦に速く、も理解できないのか」

 ハリルホジッチは苛立っていたという。1対1に関しても、現状に満足できなかったからこそ、あえてその言葉を使った。しかし、どれもこれも繰り返すことによって、言葉は伝わらなくなってしまったのだ。

 ハリルホジッチも言葉の深い海に沈んでいった。

 2017年12月のE-1サッカー選手権、ハリルJAPANは中国や北朝鮮を相手に、無理な空中戦を挑んでいる。それこそ、「縦に速く」であり、「デュエル」であるような錯覚を受けさせた。明らかな失敗だったと言える。

 しかし皮肉にも、ロシア・ワールドカップで日本が選んだ戦い方は、ハリルホジッチの戦術に近いものだった。

 グループとしても、個人としても、守りで強さを見せながら、相手を深くまで進入させていない。押し返したらプレッシングで強度を高めつつ、鋭い出足で奪ったら、一気にゴールまで突っ込む。

 ラウンド・オブ16のベルギー戦は、その戦い方が後半途中まで功を奏していた。前半はベルギーの攻撃に推され気味だったが、分厚い守備で、決定機を与えていない。シュートは浴びたが、連携してコースは限定。そして後半、カウンターから原口元気が一気にゴールを奪った。さらに同じくカウンターから乾が鋭いシュートを叩き込んで、2-0とリードしている。

 日本はその後、守備が乱れた。次々と投入される新手に対し、後手に回った。「縦の速さ」を封じられ、「デュエル」でも敗れたのだ。

 戦術を言語化する。その作業には注意が必要である。
 
文:小宮 良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
【関連記事】
【現地発】番記者が検証するバルサCL惨敗の理由「メッシを満足させるためだけのチーム作り、そのツケを払わされた」
「でかすぎ、優しすぎ!」日本代表、堂安律が日本を沸かせた超有名格闘家との対面に興奮!
「リベロのポジションではなかったが…」EL準決勝で奮戦した“ボランチ”長谷部誠を現地メディアは再評価
【セルジオ越後】劇的な展開が続いたCLも日本人は蚊帳の外。早く久保や安部が本物にならないと…
ポグバ、デリフト、バロテッリ…活動禁止となった敏腕代理人ライオラ、その“豪華な顧客たち”の行く末は!?

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト なでしこJに続け!
    4月10日発売
    U-23日本代表
    パリ五輪最終予選
    展望&ガイド
    熾烈なバトルを総力特集
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 世界各国の超逸材を紹介!
    4月18日発売
    母国をさらなる高みに導く
    「新・黄金世代」大研究
    列強国も中小国も
    世界の才能を徹底網羅!!
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ