言葉に囚われると、カオスが生まれる。
アジアカップ、ラウンド・オブ16で日本がサウジアラビアに対して使った戦術は、「Repliegue Intensivo」(スペイン語で集中的撤退戦)と言われる。
あくまで守備のブロックを作って、粘り強く守る。その上で、間隙を縫ってカウンター、もしくはセットプレーで得点を狙う。結果、日本はCKからのヘディング一発で勝利した。
「身体を張ってよく守った!」
賞賛の声が出たのは当然だろう。健闘であることは間違いなかった。
もっとも、戦いを言語化する難しさはある。なぜなら、戦術は言葉で表した時点で、一つの枠にはめられてしまい、自由を失い、実戦性を失うからだ。
違う選手、違う相手、違う環境、違う状況で使用しても、うまくいくとは限らない。
あくまで守備のブロックを作って、粘り強く守る。その上で、間隙を縫ってカウンター、もしくはセットプレーで得点を狙う。結果、日本はCKからのヘディング一発で勝利した。
「身体を張ってよく守った!」
賞賛の声が出たのは当然だろう。健闘であることは間違いなかった。
もっとも、戦いを言語化する難しさはある。なぜなら、戦術は言葉で表した時点で、一つの枠にはめられてしまい、自由を失い、実戦性を失うからだ。
違う選手、違う相手、違う環境、違う状況で使用しても、うまくいくとは限らない。
例えば、日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチが提唱した「縦に速く」、「デュエル」という文言もそうだった。それが意味するところは一つの定石であって、驚くほどのこともない。
敵陣にスペースが空いているなら、手数をかけずにボールを出す、という当然のことである。デュエルも、1対1の強度を指すが、球際を激しく、という違う言い回しはずっと前から存在していた。
しかし、言葉そのものに囚われることで、カオスが生まれる。
「縦に速くと言うが、じっくり攻めるべき時もある」
混ぜっ返すような意見も出て、複雑化してしまう。言葉を説明すればするほど、本質から離れる。
「なぜ、縦に速く、も理解できないのか」
ハリルホジッチは苛立っていたという。1対1に関しても、現状に満足できなかったからこそ、あえてその言葉を使った。しかし、どれもこれも繰り返すことによって、言葉は伝わらなくなってしまったのだ。
ハリルホジッチも言葉の深い海に沈んでいった。
2017年12月のE-1サッカー選手権、ハリルJAPANは中国や北朝鮮を相手に、無理な空中戦を挑んでいる。それこそ、「縦に速く」であり、「デュエル」であるような錯覚を受けさせた。明らかな失敗だったと言える。
しかし皮肉にも、ロシア・ワールドカップで日本が選んだ戦い方は、ハリルホジッチの戦術に近いものだった。
グループとしても、個人としても、守りで強さを見せながら、相手を深くまで進入させていない。押し返したらプレッシングで強度を高めつつ、鋭い出足で奪ったら、一気にゴールまで突っ込む。
ラウンド・オブ16のベルギー戦は、その戦い方が後半途中まで功を奏していた。前半はベルギーの攻撃に推され気味だったが、分厚い守備で、決定機を与えていない。シュートは浴びたが、連携してコースは限定。そして後半、カウンターから原口元気が一気にゴールを奪った。さらに同じくカウンターから乾が鋭いシュートを叩き込んで、2-0とリードしている。
日本はその後、守備が乱れた。次々と投入される新手に対し、後手に回った。「縦の速さ」を封じられ、「デュエル」でも敗れたのだ。
戦術を言語化する。その作業には注意が必要である。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
敵陣にスペースが空いているなら、手数をかけずにボールを出す、という当然のことである。デュエルも、1対1の強度を指すが、球際を激しく、という違う言い回しはずっと前から存在していた。
しかし、言葉そのものに囚われることで、カオスが生まれる。
「縦に速くと言うが、じっくり攻めるべき時もある」
混ぜっ返すような意見も出て、複雑化してしまう。言葉を説明すればするほど、本質から離れる。
「なぜ、縦に速く、も理解できないのか」
ハリルホジッチは苛立っていたという。1対1に関しても、現状に満足できなかったからこそ、あえてその言葉を使った。しかし、どれもこれも繰り返すことによって、言葉は伝わらなくなってしまったのだ。
ハリルホジッチも言葉の深い海に沈んでいった。
2017年12月のE-1サッカー選手権、ハリルJAPANは中国や北朝鮮を相手に、無理な空中戦を挑んでいる。それこそ、「縦に速く」であり、「デュエル」であるような錯覚を受けさせた。明らかな失敗だったと言える。
しかし皮肉にも、ロシア・ワールドカップで日本が選んだ戦い方は、ハリルホジッチの戦術に近いものだった。
グループとしても、個人としても、守りで強さを見せながら、相手を深くまで進入させていない。押し返したらプレッシングで強度を高めつつ、鋭い出足で奪ったら、一気にゴールまで突っ込む。
ラウンド・オブ16のベルギー戦は、その戦い方が後半途中まで功を奏していた。前半はベルギーの攻撃に推され気味だったが、分厚い守備で、決定機を与えていない。シュートは浴びたが、連携してコースは限定。そして後半、カウンターから原口元気が一気にゴールを奪った。さらに同じくカウンターから乾が鋭いシュートを叩き込んで、2-0とリードしている。
日本はその後、守備が乱れた。次々と投入される新手に対し、後手に回った。「縦の速さ」を封じられ、「デュエル」でも敗れたのだ。
戦術を言語化する。その作業には注意が必要である。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。