絶好調男が試合を決めた。
 
　前橋育英と桐生一の間で争われた高校サッカー選手権の群馬県予選決勝。今年から桐生一がプリンスリーグ関東に昇格したため、今年は公式戦で実に５度目の顔合わせ（関東大会予選でも当たっているが、前橋育英がBチームのためカウントせず）。新人戦、インターハイ予選、リーグ戦の４試合での対戦成績は２勝１敗１分と、桐生一が一歩リードしているが、プリンスリーグ関東における現時点の順位では前橋育英が２位、桐生一が４位と、前者がリードしている。
 
　個々の能力も拮抗している。ともに全国的に見ても非常にハイレベル。前橋育英はFW榎本樹（松本入団内定）、MF秋山裕紀（新潟入団内定）というふたりのプロ内定者がいるのに対し、桐生一も仙台入団内定のMF田中渉と、U-17日本代表FW若月大和を擁している。
　 
　前橋育英にとって最大のライバルである桐生一との試合は、非常に苦しい展開となった。

　前半は相手の３バックと両ウイングバックに対し、「榎本や室井にロングボールを入れて後ろ向きにさせる狙いだった」と山田監督が語ったように得意のポゼッションスタイルを敢えて選択しなかった。相手を５バック状態にさせて、中盤の間延びを狙ったのだ。それに対し桐生一も田中が中盤でタメを作り、そこから小澤謙登、松下駿也、小池泰誠のアタッカー陣がドリブルで積極的に仕掛けるサッカーを展開。前半はがっぷり四つの展開になった。
 
　そうした流れで迎えた後半、いきなり試合が動く。６分、桐生一は右CKを得ると田中がファーサイドへクロスを供給。これを小澤がヘッドで折り返し、ニアサイドでCB中野就斗が押し込んで桐生一が先制に成功した。
 
　１点のビハインドを背負った前橋育英。ここでチームを救ったのは背番号11の快足FW室井彗佑だ。「ずば抜けたアジリティを持っている。それを発揮してくれた」と名将・山田耕介監督も舌を巻く圧巻のキレで０-１から逆転勝利を挙げる立役者となる。
 
　後半14分に室井が持ち前のアジリティを発揮。ディフェンスラインの裏に出されたパスに反応すると、MF熊谷広夢がバウンドしたボールを待った瞬間を見逃さなかった。一気に加速して身体をボールと熊谷の間にねじ込んでボールを収めてゴールに向かうと、熊谷は溜まらず室井を倒してしまいPKの判定。
 
「PKは自分が蹴るとずっと思っていたので、シュートには自信もありましたし、外す気がしなかったです」
 
　室井は自らボールを拾ってペナルティスポットに置くと、強烈な一振りでゴール左隅にシュートを突き刺し、同点ゴールを叩き込んだ。その後も瞬間的な動きで桐生一守備陣を翻弄すると、「延長戦になると思っていた」（山田監督）後半アディショナルタイムの１分。再び室井が驚異のアジリティを発揮する。