1998年７月11日、パリのパルク・デ・プランスで相まみえたのは、オランダとクロアチア。フランス大会における３、４位を決する戦いである。オランダは準決勝でブラジルとの大激闘の末にPK戦で涙を飲み、クロアチアは開催国フランスを追い詰めたものの、相手の底力に屈して、この一戦に駒を進めてきた。
 
　注目は、独立国としては初出場のクロアチアが最終的にどの順位で大会を終えるかということ。そしてもうひとつ、ここまでガブリエル・バティストゥータ（アルゼンチン）やクリスティアン・ヴィエリ（イタリア）と並んで５得点のエース、ダボル・シュケルがゴールを挙げて、単独での得点王を確定させられるかどうかということだった。
 
　試合は開始13分で早くも動く。カウンターからロベルト・ヤルニが左サイドを疾走。中央のロベルト・プロシネツキに渡すと、この中盤のアーティストは巧みなボールさばきで反転しながらオランダDFをかわして、GKエドウィン・ファン・デル・サールの牙城を簡単に破ってみせた。
 
　対するオランダは21分、ボウデビン・ゼンデンが右サイドからドリブルで持ち込み、トップスピードのまま左足を振り抜く。スライスのかかったボールは、GKドラゼン・ラディッチの頭上を破ってゴールに突き刺さった。
 
　準決勝のフランス戦でロラン・ブラン退場の要因となったスラベン・ビリッチ（小競り合いでブランから平手打ちを食らったかのように装った）がボールを持つたびに、フランス人の観衆が大ブーイングを浴びせた以外は、３位決定戦らしい落ち着きのある、かつ楽しい雰囲気のなかで試合は進んだ。
 
　そして35分、アリョーサ・アサノビッチがオランダゴール前までボールを持ち込み、後方のズボニミール・ボバンに戻す。ボバンはこれをダイレクトで、ペナルティエリア左手前に位置取ったシュケルへパス。グループリーグで日本を奈落の底に突き落とした生粋の点取り屋は、迷わず左足を振り抜く。オランダはDFヤープ・スタムがシュケルに寄せていたものの、ボールはその股間を抜けてサイドネットを揺らした。
 
　この試合、わずかシュート５本で２ゴールを挙げたクロアチアは、残りの長い時間でオランダの逆襲をことごとくはね返した。「我々には３位になる実力がある。それを証明したい」という試合前のシュケルの言葉通り、クロアチアはオランダに比べて格段にモチベーションが高く、それが１つひとつのプレーに表われていた。
 
　ミロスラフ・ブラゼビッチ監督が大会前に口にした「我々は世界を驚かせる」という誓いは現実のものとなった。試合終了後、シュケルはすぐにクロアチア国旗を手にして、愛する母国にチームの３位入賞と自身の得点王を捧げた。
 
　91年にユーゴスラビアから独立したばかりの新しい国の民が、一丸となって我らが母国を盛り上げようとしていた熱き時代。そうそうたるタレント、優秀な指揮官、そして「ヴァトレニ（炎を意味する代表チームの愛称）を心底愛する国民……、これらが愛国心でひとつにつながって初めてなし得た、新興国の偉業であった。


◆７月11日に行なわれた過去のW杯の試合
 
1966年イングランド大会
「グループリーグ」
イングランド　０-０　ウルグアイ
 
1982年スペイン大会
「決勝」
イタリア　３-１　西ドイツ
 
1998年フランス大会
「３位決定戦」
オランダ　１-２　クロアチア
 
2010年南アフリカ大会
「決勝」
オランダ　０（延長）１　スペイン