「失敗のスペシャリスト」と誰が呼べるか。
この数週間、アーセン・ヴェンゲル監督とチェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督が舌戦を繰り広げている。モウリーニョから発せられる言葉はどれも刺激的で、記者である私も大いに楽しませてもらっているが、今回ばかりは度が過ぎたように思う。
発端は、モウリーニョのこのコメントだった。マンチェスター・シティに今シーズンのホーム初黒星をつけた直後のことだ。
「我々はタイトルレースに加わってはいない。優勝を狙えるのはアーセナルとマンチェスター・シティ。チェルシーは、まだ仔馬だ」
これにヴェンゲルが反応した。
「みずから優勝の可能性を否定するのは、失敗を恐れている監督だ」
売られた喧嘩は買うのがモウリーニョの流儀だ。
「私が失敗を恐れているとしたら、それは失敗した経験がないからだ。8年間無冠のような失敗はね。ヴェンゲルは、失敗のスペシャリストだ」
と、痛烈にやり返したのである。
優勝争いを優位に進めるために、モウリーニョはあえて刺激的なフレーズを選んだのだろう。相手にプレッシャーをかけるこうしたやり方は、このポルトガル人の常套手段だ。とはいえ、「失敗のスペシャリスト」には、さすがに我々記者も凍りついた。まったく必要のない、敬意に欠けるコメントだ。
「モウリーニョ監督がこんなことを言っていますが……」
後日、ヴェンゲルに質問をぶつけると、その表情がサッと強張ったのが非常に印象的だった。
持論を言わせてもらえば、トロフィーの数だけがヴェンゲルを評価する物差しではない。たしかに、2005年のFAカップ優勝を最後にタイトルから遠ざかっている。だが、チャンピオンズ・リーグの出場権(リーグ4位以内)はただの一度も逃していない。それもこの16年間だ。しかも、健全経営というクラブの理念に沿いながらである。ビジネスの世界なら、超優良企業のCEOとして、ヴェンゲルは称賛の嵐に包まれているはずだ。
監督業から身を引いているであろう20年後。はたして、このフランス人を「失敗のスペシャリスト」と呼べる者はいるだろうか。
【記者】
Jeremy WILSON|Daily Telegraph
ジェレミー・ウィルソン/デイリー・テレグラフ
英高級紙『デイリー・テレグラフ』でロンドン地域を担当し、アーセナルに精通。チェルシーとイングランド代表も追いかけるやり手で、『サンデー・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙にも寄稿する。
【翻訳】
田嶋康輔
発端は、モウリーニョのこのコメントだった。マンチェスター・シティに今シーズンのホーム初黒星をつけた直後のことだ。
「我々はタイトルレースに加わってはいない。優勝を狙えるのはアーセナルとマンチェスター・シティ。チェルシーは、まだ仔馬だ」
これにヴェンゲルが反応した。
「みずから優勝の可能性を否定するのは、失敗を恐れている監督だ」
売られた喧嘩は買うのがモウリーニョの流儀だ。
「私が失敗を恐れているとしたら、それは失敗した経験がないからだ。8年間無冠のような失敗はね。ヴェンゲルは、失敗のスペシャリストだ」
と、痛烈にやり返したのである。
優勝争いを優位に進めるために、モウリーニョはあえて刺激的なフレーズを選んだのだろう。相手にプレッシャーをかけるこうしたやり方は、このポルトガル人の常套手段だ。とはいえ、「失敗のスペシャリスト」には、さすがに我々記者も凍りついた。まったく必要のない、敬意に欠けるコメントだ。
「モウリーニョ監督がこんなことを言っていますが……」
後日、ヴェンゲルに質問をぶつけると、その表情がサッと強張ったのが非常に印象的だった。
持論を言わせてもらえば、トロフィーの数だけがヴェンゲルを評価する物差しではない。たしかに、2005年のFAカップ優勝を最後にタイトルから遠ざかっている。だが、チャンピオンズ・リーグの出場権(リーグ4位以内)はただの一度も逃していない。それもこの16年間だ。しかも、健全経営というクラブの理念に沿いながらである。ビジネスの世界なら、超優良企業のCEOとして、ヴェンゲルは称賛の嵐に包まれているはずだ。
監督業から身を引いているであろう20年後。はたして、このフランス人を「失敗のスペシャリスト」と呼べる者はいるだろうか。
【記者】
Jeremy WILSON|Daily Telegraph
ジェレミー・ウィルソン/デイリー・テレグラフ
英高級紙『デイリー・テレグラフ』でロンドン地域を担当し、アーセナルに精通。チェルシーとイングランド代表も追いかけるやり手で、『サンデー・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙にも寄稿する。
【翻訳】
田嶋康輔