「バルデスほど自分たちを守ってくれた先輩はいない」
バルサのロッカールームでラ・ドブレ(ザ・ダブル)と呼ばれているのが、ビクトール・バルデスだ。イニシャルのV・Vを重ねると、「W」になるからだ。
3月23日のサンチャゴ・ベルナベウでのクラシコは、バルデスにとって最後のクラシコとなった。契約が切れる今シーズン限りでの退団を決めている守護神が、バルサのユニホームを着てベルナベウのピッチに立つことはもうない。試合後、ガバのビーチ沿いにある素敵な自宅に戻ってからも、退団の意思は変わらなかった。
クラシコで見せたふたつのセーブは決定的な意味を持っていた。あの勝利のおかげで、バルサはふたたびタイトルレースに戻ることができたのだ。それでもバルデスの決意は揺るがなかった。レアル・マドリーとエスパニョールに勝つ、それがなによりの目標であるバルサでの日々から離れる決意が、だ。
バルデスはもう1年以上前に、クラブに契約を更新するつもりがない旨を告げている。バルサで12年を過ごし、新たな刺激を求めていたのだ。
1年と少し前のある朝、バルデスはサンドロ・ロセイ前会長の自宅を、スポーツディレクターのアンドニ・スビサレータと共に訪れた。ロセイはカンプ・ノウのオフィスではなく、自宅でこのような会談を持つ機会が多かった。
バルデスは契約を延長する意思がないと、その場で告げた。ロセイはその決断に憤慨した。クラブ史上もっとも愚かなこの前会長は、スビサレータに命じた。契約が満了する前にバルデスを売却するようにと。ロセイは言った。
「バルデスは契約の最終年(今シーズンのことだ)は本気でプレーしない。怪我のリスクをつねに考えてプレーするはずだ」
スビサレータは反論した。
「いいえ会長、きっとバルデスはキャリア最高のシーズンを送るでしょう」
その言葉通り、バルデスは素晴らしいパフォーマンスを見せつづけた。6度目のサモラ賞(リーグ最優秀GK)の有力候補でもあった。自身にとって6度目のリーガ優勝、4度目のCL優勝も見えていた。
だが、それはすべて夢に終わった。クラシコの3日後、右膝に大怪我を負ったのだ。セルタ戦の開始20分、バルデスはバルサで最後のセーブを見せた。彼にとっては名誉なことだったのかもしれない。この日も無失点で、愛したカンプ・ノウを後にすることになったのだから。
バルサというクラブの歴史に残るGKは、ピッチ内外でプロ精神の固まりだった。他の選手たち、例えばカルレス・プジョールなどとは違い、そのリーダーシップは本物だった。ロッカールーム内の話を一度も外に漏らしたりはしなかった。だから多くの記者は、あまりバルデスを評価しないのだが。バルサの若手は口を揃える。「バルデスほど自分たちを守ってくれた先輩はいない」と。
バルサでの最後の日々は、残酷な形で終わりを告げることとなった。バルデスは拍手とともにカンプ・ノウを去るべきだったのだ。担架に横たわり、運び出されるのではなく……。
しかし、ラ・ドブレの記憶はこのクラブの中に永遠に刻まれている。バルデスを超えるGKは、これからも現われないだろう。
【記者】
Luis MARTIN|El Pais
ルイス・マルティン/エル・パイス
スペインの一般紙『エル・パイス』のバルセロナ番とスペイン代表番を務めるエース記者。バルサの御用新聞とも言えるスポーツ紙『スポルト』の出身で、シャビ、V・バルデス、ピケらと親交が厚く、グアルディオラ(現バイエルン監督)は20年来の親友だ。
【翻訳】
豊福晋
3月23日のサンチャゴ・ベルナベウでのクラシコは、バルデスにとって最後のクラシコとなった。契約が切れる今シーズン限りでの退団を決めている守護神が、バルサのユニホームを着てベルナベウのピッチに立つことはもうない。試合後、ガバのビーチ沿いにある素敵な自宅に戻ってからも、退団の意思は変わらなかった。
クラシコで見せたふたつのセーブは決定的な意味を持っていた。あの勝利のおかげで、バルサはふたたびタイトルレースに戻ることができたのだ。それでもバルデスの決意は揺るがなかった。レアル・マドリーとエスパニョールに勝つ、それがなによりの目標であるバルサでの日々から離れる決意が、だ。
バルデスはもう1年以上前に、クラブに契約を更新するつもりがない旨を告げている。バルサで12年を過ごし、新たな刺激を求めていたのだ。
1年と少し前のある朝、バルデスはサンドロ・ロセイ前会長の自宅を、スポーツディレクターのアンドニ・スビサレータと共に訪れた。ロセイはカンプ・ノウのオフィスではなく、自宅でこのような会談を持つ機会が多かった。
バルデスは契約を延長する意思がないと、その場で告げた。ロセイはその決断に憤慨した。クラブ史上もっとも愚かなこの前会長は、スビサレータに命じた。契約が満了する前にバルデスを売却するようにと。ロセイは言った。
「バルデスは契約の最終年(今シーズンのことだ)は本気でプレーしない。怪我のリスクをつねに考えてプレーするはずだ」
スビサレータは反論した。
「いいえ会長、きっとバルデスはキャリア最高のシーズンを送るでしょう」
その言葉通り、バルデスは素晴らしいパフォーマンスを見せつづけた。6度目のサモラ賞(リーグ最優秀GK)の有力候補でもあった。自身にとって6度目のリーガ優勝、4度目のCL優勝も見えていた。
だが、それはすべて夢に終わった。クラシコの3日後、右膝に大怪我を負ったのだ。セルタ戦の開始20分、バルデスはバルサで最後のセーブを見せた。彼にとっては名誉なことだったのかもしれない。この日も無失点で、愛したカンプ・ノウを後にすることになったのだから。
バルサというクラブの歴史に残るGKは、ピッチ内外でプロ精神の固まりだった。他の選手たち、例えばカルレス・プジョールなどとは違い、そのリーダーシップは本物だった。ロッカールーム内の話を一度も外に漏らしたりはしなかった。だから多くの記者は、あまりバルデスを評価しないのだが。バルサの若手は口を揃える。「バルデスほど自分たちを守ってくれた先輩はいない」と。
バルサでの最後の日々は、残酷な形で終わりを告げることとなった。バルデスは拍手とともにカンプ・ノウを去るべきだったのだ。担架に横たわり、運び出されるのではなく……。
しかし、ラ・ドブレの記憶はこのクラブの中に永遠に刻まれている。バルデスを超えるGKは、これからも現われないだろう。
【記者】
Luis MARTIN|El Pais
ルイス・マルティン/エル・パイス
スペインの一般紙『エル・パイス』のバルセロナ番とスペイン代表番を務めるエース記者。バルサの御用新聞とも言えるスポーツ紙『スポルト』の出身で、シャビ、V・バルデス、ピケらと親交が厚く、グアルディオラ(現バイエルン監督)は20年来の親友だ。
【翻訳】
豊福晋