フットボールは宗教や故国がそうであるように、多くの人々に共有されるフィクションだ。その一連の思考が機能するのは、我々が物語を信じているからに他ならない。

　レアル・マドリーはバルセロナとのコパ・デル・レイの決勝戦で敗れた（スコアは２－３）。それがどうしたというんだ？マドリーの物語の重みはそれほど計り知れないものがあり、負けても勝つなんて芸当も可能だ。敗北がどれだけ痛くても、どれだけ大きな騒ぎになっても、石に刻まれたものは消えることはないのだ。

　マドリーのその強者のイメージは、神話的領域にまで達しようかという競争精神によって築き上げられた。アルフレッド・ディ・ステファノが君臨した1950年代後半も、何人ものガルシア姓の選手がチームを支えた1970年代後半から1980年代前半にかけても、ヨーロッパにおいて成し遂げた数々の偉業や逆転劇は、クラブの歴史のどのページにも刻まれている。

　私が話しているのは勝利やタイトル獲得だけではない。そこには誇りを高め、永遠に脳裏に刻まれた感情的反応も含まれている。

　勝利の伝統は、優越性の物語を育み、その物語はFIFAに「20世紀最高のクラブ」と認定されることで確認された。中央集権的なクラブとしての地位は、スペインの政治・経済の中枢と常にリンクされ、マドリーの権力の強さに対する認識を拡大した。

　必ずしも良い方向ばかりではなかったが、それら全部をひっくるめてマドリーを国内、海外問わず疑いようのない権威を持つクラブとして認識させた。だからこそ愛され、だからこそ憎まれる。２つの称賛のされ方だ。

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　そしてだからこそ、最近、クラブの内部からその物語を侵食する動きが感じられるのは驚きだ。目下、マドリーが傾倒しているのは被害者意識だ。強さを示す物語を継承することから、脆弱さを示す物語を投影することへと発想を変えたわけだ。

　その方向転換よって多くのファンの感情を動かすことはできるかもしれない。しかしそれは同時に伝統のブランドである「無敵のオーラ」を侵食することにもなる。

　被害者意識は集団の想像力に作用するだけではない。現場に伝わり、腐食的な効果をもたらす。スポーツエリート揃いの超が付くほどの競争的な伝統の文化を冒涜する行為である。自ら要求する姿勢は宗教的な意味合いに近いマドリーでは、負けを正当化したいという誘惑によってその事実を軽んじることがあってはならない。

　不満の理由を外部に求めることは、それはつまりプロ意識や誠実さをもって反省することをやめることと同じだ。継続的な改善は、いかなる言い訳を放棄することから始めるべきものであるはずだ。