今季の湘南で開幕前に注目されたのが、３－５－２のアンカーだ。

　昨季は大半の試合で田中聡がアンカーを務め、攻守に欠かせない存在となっていたが、今オフに広島へ完全移籍。チームの心臓を引き抜かれたなかで、中盤の底を担える選手の補強は、昨季に川崎で11試合の出場に留まったゼ・ヒカルドのみ。

　その新顔は１月22日の練習で負傷。アンカーの代役候補に考えられるインサイドハーフの奥野耕平や茨田陽生、ストッパーの髙橋直也や鈴木淳之介をコンバートするのか。システム変更でアンカー自体をなくすのか。

　いくつかの選択肢が考えられたが、山口智監督は開幕戦の鹿島戦（１－０）で、システムを継続したうえで、昨季にスタメン起用がわずか３回だった奥野をアンカーに抜擢した。

「詳細を明かすつもりはないが、守備のやり方を多少、整理した」（山口監督）

　粘り強い守備と正確なポゼッションを武器とする昨季の戦術をベースに、“奥野仕様”へと微調整されたスタイルのなかで、奥野が躍動。中央から動きすぎない位置取りと的確な配球で、アンカーの語源の通り、船の碇のようにチームを安定させた。
【動画】奥野耕平が演出した福田翔生のゴール

　決勝点となった64分の福田翔生のゴールも、奥野の縦パスが起点。攻守両面で持ち味を発揮し、勝利に貢献した背番号15が試合を回想する。

「前半の立ち上がりに課題はありますが、後半はスムーズにできたかなと。昨季、フル出場があまりなかったので心配される部分もあるかもしれませんが、体力的には先発でも余裕です。今後も人にガツッと行けるところや走行距離、派手さはないけど無難に攻撃を組み立てられる部分を中心に、自分の良さを見せていきたいです」

　もっとも、試合前にはプレッシャーも感じていたという。

「正直、聡と比べられるのは分かっていました。それは始動日から意識していて、変なプレッシャーを感じてしまっていた部分もある。そのうえで自分ができることを整理してやれたかなと」

　否が応でも周囲からの見られ方を意識してしまう状況だが、奥野は重圧を跳ね除け、自分らしさを体現した。良い意味でサポーターに田中の存在を忘れさせるほど、今後も継続して存在感を放てるか。

　湘南の新たな心臓へ、奥野が着実に歩みを進めている。

取材・文●岩澤凪冴（サッカーダイジェスト編集部）

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