神戸の天皇杯制覇の裏に新井章太あり。感動を覚えたセカンドGKとしての貢献

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2024年11月23日

表彰式でトロフィーを掲げる姿にも感慨深さが

天皇杯のトロフィーを掲げる新井。チームメイトと喜びをともにした。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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[天皇杯決勝]G大阪 0-1 神戸/11月23日/国立競技場

 神戸が5大会ぶり2度目の優勝を果たした11月23日の天皇杯決勝。戴冠の立役者は、決勝弾をマークしたFW宮代大聖、前線で起点になったFW大迫勇也、FW武藤嘉紀、クリーンシートを達成したCB山川哲史、GK前川黛也ら挙げればキリがない。

 ただ、個人的にはセカンドGK新井章太の貢献に目を向けたい。今季、J2の千葉からJ1王者の神戸に加わった36歳の守護神は、天皇杯ではラウンド16の柏戦、準々決勝の鹿島戦、準決勝の京都戦で先発し、決勝進出に大きく貢献した。

 しかし、栄えあるファイナルでゴールマウスを守ったのは、正守護神であり、日本代表にも名を連ねる前川黛也であった。

 前川自身も「僕はベンチ入りもしたことがない大会」と決勝の舞台のみに立つことに後ろめたさもあったという。しかし、ここで背中を押したのが新井だった。

 悔しさはあったに違いない。それでも「お前がこのチームの守護神なんだから。俺ら(他のGK3人)のバトンをつないでくれ」と前川にメッセージを送った。
【動画】神戸・宮代の決勝弾
 そして迎えた決勝当日。試合開始直後からベンチの脇で身体を動かし、ピッチに声を送り続ける新井の姿があった。

「それは季節の問題。寒いから身体を動かさないと」と冗談っぽく笑って見せたが、想いは熱い。新井自身、東京V、川崎、千葉でプレーし、川崎ではリーグ連覇やルヴァンカップ制覇を経験し、“勝つチームの雰囲気”を学んできたからこそ、大事なことを実践できる。

「いろんなチームを経験してきて、どういうチームが勝つのかなと、そういうのを考えてきたところで、どんな状況に置かれても全力で準備をする選手たちが集まっているチームが一番強い。だからこそ自分の役割をしようと、神戸を支えるために自分もそういう風に頑張ってきました。

 だって、試合に出られないからってめげていたら格好悪いでしょ。やっぱりどんな時も全力を尽くさないと」

 その姿、努力は誰もが認めるところだろう。

 現に表彰式では、キャプテンの山口蛍の次、チームふたり目としてトロフィーアップをする大役を任された。当然「俺で良いの?」と躊躇したが、「ここまでつないでくれたのは章太さんだから」とチームメイトたちが推してくれたというエピソードを聞くだけで、目頭が熱くなるような想いである。

 試合後には、前川が新井のもとに駆け寄り、熱い抱擁をかわしながら涙を流し、新井も前川からの「章太くんのお陰だよ」という言葉に込み上げるものを我慢できなかった。

 さらに今季、川崎から覚悟の移籍を決断し、決勝ではチームを導くゴールを決めた宮代への想いを訊くと、新井は目を細める。宮代のゴールを誰よりも喜んでいたのは新井だった。

「難しい感情があった1年だったと思いますし、あいつの活躍のお陰で勝てる試合もめちゃくちゃ多かったです。(宮代)大聖自身、出られない時期もありましたが、そういう時も頑張っていたので、そういう選手がこういう場で報われるんだなと実感しましたね。俺にとっては弟がやってくれたような感じ。あいつのことは15歳、中3の時から知っているから。やっぱりめちゃくちゃ嬉しいですよ」

 決勝の前日には、恩師である鬼木達監督の今季限りでの退任が決まっている川崎で盟友、小林悠が魂のゴールを奪った姿にも刺激をもらっていた。

「やっぱ、ああいう姿には感動しちゃいますよ」

 ピッチに立ち身体を張った選手たちは称賛されるべきである。しかし、スポットライトが届かない場所でも、自らの志を貫き、戦う男たちがいる。チームを真の意味で支えているのは彼らの献身だ。

 ピッチに立って輝くことを目指し続けながらも、黒子役になっても勝利のために働ける。そんな選手たちが集まっているチームは強い。それは断言できる。

 大袈裟化だとツッコまれるかもしれないが、神戸の天皇杯制覇の裏には新井章太がいたと私は言いたい。そして彼はすでに、神戸のリーグ連覇へ向けて頭を切り替えている。自分にできる最善の準備はもう始まっているのである。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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