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未曽有の経営危機で高まる結束――。日本人CEO、ベルギーの小クラブ、そして地元サポーターの語り継がれるべき物語【現地発】

カテゴリ:海外日本人

中田徹

2024年09月26日

試合後、サポーターはCEOに向けて感謝と尊敬を口にした

ゴール裏のサポーターと話し込む飯塚CEO(奥)。厚い信頼関係が垣間見える。写真:中田徹

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 9月22日、KMSKデインズ対クラブNXT(ベルギー2部リーグ)の試合を、私はホーム側ゴール裏の土手に座りながら観ていた。デインズのゴール裏住民はとても若い。私のすぐ近くにはグループ交際と思しき男女たちが、お菓子やジュースを口にしながらサッカー観戦とお喋りに夢中になっていた。
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 ゴール真裏の熱心なサポーターたちも若い。中心に立つ成人たちの周りを、グルリとティーンエイジャーらしき少年少女たちが取り囲んで声を嗄らしているのだ。

 コーナーフラッグ辺りには乳母車を引く若いママたちがいた。試合終了直前、デインズのFWザカリア・フダウチが勝利を決定づける2−0のゴールを決めると、一目散に乳母車のところまで疾走し自分の赤ちゃんにキスをした。デインズのアカデミー生たちもダッシュで殊勲の左ウインガーの元へ駆け寄り、ゴールの喜びを分かち合う。その姿を身重の妻が嬉しそうに見ている――。こうした幸せのおこぼれに私もあずかりながら、つくづく「小さいながらもデインズは雰囲気の良い、ファミリークラブだな」と感じ入った。
 
 試合後、ゴール裏に行ってサポーターたちと話し合うのは、飯塚晃央CEOのルーティーンだ。この日も20分以上、熱心に彼らと話し込んでいた。「うんうん」と大きく頷きながら、飯塚CEOは何を話していたのだろうか。

「みんな、私に対して『非常に透明性のあるコミュニケーションをしてくれてありがとう』とか『君がやっていることをリスペクトしている。感謝している』と言ってもらったので『ありがとう』という思いを込めて頷いてました」

「透明性のあるコミュニケーション」とは9月14日、デインズの公式サイトが「クラブオーナーであるACAフットボール・パートナーズ(シンガポール。以下ACAFP)からの振り込みが滞っていることから、クラブの運営に支障をきたしている。今、クラブは将来的な財務基盤を整えるため売却、投資、共同経営など、あらゆる方策を探っている」というステートメントを出したことを指す。
 
「デインズの経営が厳しい」という噂は、7月頃からX(旧ツイッター)で拡散され、8月にも同様のポストが再投下された。小さな町のクラブだけに、デインズを巡るさまざまな話はファンなどの間に一気に拡散される。いよいよ選手たちから「アキ(飯塚CEO)の口から、どういう状況なのか説明してくれ」という要望が出たこともあり、9月13日、監督、コーチ陣、スタッフ、選手たちからロッカールームに呼ばれて、クラブの苦境を話した。

「内々でトラブルを解決し『実は問題なかった』みたいな感じで終わらせることを、我々は目ざしていた。しかしこういう段になると、そういうわけにもいかない。だからちゃんと『今はこういう状況です』ということを全部、つまびらかに話をしました。一方、こうなると情報は漏れてしまうもの。それなら自分たちで情報を公開したほうが良いので、翌14日にクラブステートメントという形でウェブサイトに載せました」

 こうしてデインズが資金繰りに問題を抱えていることが公になった。

「来シーズンの2026年に100周年を迎えるクラブを、ここで終わらせちゃいけない。私自身はデインズがちゃんと次に引き継がれ、ここのクラブを存続させて未来につなげていきたい。『次の投資家を探しています』というのは公開ステートメントで発表していることですし、隠していることではない。地元の人たちの、次の未来につながるような形でなんとかクラブの軌道を戻したい。今はそれだけです」
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