熱いファンに支えられる古豪の本拠地で「イトー!」の大声援が生まれるワケ【現地発】

カテゴリ:ワールド

中野吉之伴

2024年02月10日

途中出場から流れを変える切り札

マクデブルクで3シーズン目を迎えている伊藤。(C)Getty Images

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 ブンデスリーガ2部の1FCマクデブルクには輝かしい過去がある。

 東ドイツ時代の強豪で、1971-72、73-74、74-75シーズンと3度の優勝歴を誇る。73-74シーズンのカップウィナーズ・カップでは決勝でACミランを2-0で下し、初優勝を果たしている。そして、これは旧東ドイツクラブにとって唯一の国際タイトルとなった。

 91年のドイツ再統一後は3部リーグからスタート。その後、3部と4部を行き来するエレベータークラブとなり、02年には残留圏内の12位でフィニッシュしながらも財政難の影響で4部リーグ降格となってしまった。

「〇〇年代にはブンデスリーガの常連」
「リーグやカップ戦で優勝歴がある」
「数々のトップクラスの選手を有した」

 すべて過去形で語られがちな古豪が、往年の輝きを取り戻すのは本当に困難だ。同じようなクラブを見渡せば、再浮上どころか5部、6部へと消えてしまうケースも少なくない。それとは逆に持ち直し、22年に2部昇格を果たしたマクデブルクの健闘は称賛に値するだろう。

 2月初旬、町野修斗がプレーするホルシュタイン・キールとの試合を取材した。ホームスタジアムのMDCCアレーナは3万98人という中規模のキャパシティ。この日、ドイツ全土でトラムやバスのストが発生したため、ファンの多くは中央駅から45分ほども歩いてスタジアムに向かわなければならなかった。この悪条件下で2万97人ものファンが集まったのは、シンプルにすごいことではないだろうか。

 そんなマクデブルクのファンから愛される日本人選手がいる。伊藤達哉。柏レイソルの育成アカデミー出身で、15年にドイツのハンブルガーSVへ移籍。17年9月にトップチームでプロデビューを飾り、切れ味鋭いドリブルで注目を集めた。その後、ベルギーリーグのシント=トロイデンを経て、22年1月にマクデブルクへと加入。途中出場から試合の流れを変える切り札として、ファンから愛されている。

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 27分にキールに先制を許し、1点を追う展開が続くマクデブルク。75分、スタジアムが沸いた。伊藤が呼ばれたのだ。

 ベンチに走る伊藤に向けて、スタジアムのいろんなところから「イトー!」という大きな声援が送られる。ピッチ上に立つと誰よりも小柄。でも、その機敏さは随一。ファンはワクワクしだす。伊藤が出場したら、何かが起こるかもしれないと期待を膨らませるのだ。やはり途中出場から貴重な決勝ゴール――伊藤にとっては嬉しい今シーズン初得点――を挙げたのは、前回のホームゲーム(19節アイントラハト・ブラウンシュバイク戦)だった。

 選手にはそれぞれ輝ける場所と輝ける起用法があるのだろう。

 79分、伊藤が一瞬でトップギアに入るドリブルで左サイドを切り裂いた。鋭い突破を見せると、右足アウトサイドでクロス。相手の足が止まった瞬間に動き出し、相手が動きはじめたときにはすでにその場にはいない。

 疲れが出てくる終盤に、そんな選手が出てきたら守る側は本当に嫌だろう。キールDFもすぐに警戒して2人で対応するようにしたが、伊藤は臆することなく仕掛け続けた。

「自分としては1対1を3回やって、3回とも抜く必要はなくて、1回抜けたらOKという感じです。途中から出ているので、そこで別に消極的になる必要もない」

 83分にも1対1で突破して中に切り込んで右足シュートに持ち込むと、アディショナルタイムにキール守備陣の密集を軽やかに潜り抜け、素早くシュート。GKが弾くも、こぼれ球に反応した味方が押し込んで、土壇場で引き分けに持ち込むことができた。伊藤も喜んだ。

「今日は結果につながったので良かったです」
 
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