サッカーにおける「サイドでの縦の補完関係」は欠かせないもので、“強いつながり”が要求される。

　もちろん、センターバックやボランチの横での関係性も同じように重要だろう。お互いが理解し合い、ラインの高さを微妙に変え、カバーする関係を作らなければならない。それがチーム全体のバランスにも影響する。

　一方で、サイドでのサイドアタッカー、サイドバックの縦の関係はチームそのものとはやや独立したところがあって、それだけに‟ぼかせない”。不具合は明瞭に出てしまう。相手に脅威を与えられず、味方にとって弱点になるのだ。

　例えばプレミアリーグ、ブライトンの三笘薫は、相手を蹴散らすようなドリブルが特徴的だろう。独立した騎兵の風体がある。ただ、サイドバックにエクアドル代表ベルビス・エストゥピニャンがいた方が、その武器を思うままに使える。エストゥピニャンは単純にパスを付けるタイミングが良いし、サイドを駆け上がる推進力があるだけに囮にもなれる。三笘はその関係性の中でインサイドにも出没し、無双状態になるのだ。

　カタールワールドカップ、日本代表の三笘はウィングバックを主戦場にしていたが、コスタリカ戦は全く持ち味を出せなかった。左センターバックに入った伊藤洋輝のパスはタイミングが悪く、攻め上がりも呼吸が合わず、三笘は孤立していた。縦関係は唯一無二だけに、そこで不具合が起きると、攻め手がぐっと減ってしまうのだ。

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　昨シーズンのJリーグ王者である横浜F・マリノスは今シーズン、ヴィッセル神戸に覇権を奪われる形になったが、攻撃が外国人アタッカーのスピードパワー頼みで、やや単調になっていた。それは右サイドバック、小池龍太のケガによる欠場が続いたのが一つの要因にあるだろう。彼がいることで右サイドでも起点を作り、攻撃的優位に戦況を動かせていた。水沼宏太との補完関係は抜群で、コンビネーションを作って高い位置で相手を押し込めたはずだが…。

　サイドアタッカー、サイドバックはお互いが切磋琢磨し、高め合う関係と言える。では両者は鶏が先か、卵が先か。

　例えばレアル・ソシエダの久保建英は、どんなサイドバックとでも組めるのがアドバンテージだろう。2019年のスペイン挑戦以来、シーズンごとに異なるサイドバックと組んでいるが、ほとんど誰とでも高いレベルで適応。今シーズンはアマリ・トラオレとも、相手の持ち味を引き出すような関係性を築くことができている。このコンビネーション力こそ、彼の異能と言えるかもしれない。

　サイドの縦関係は特殊である。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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