「自信があるわけではありません」

　６月、期限付き移籍していたベルギー１部リーグのコルトリイクから、湘南ベルマーレに復帰したばかりの田中聡に取材した際、当時20歳のMFはそう口にしていた。

「最初に試合に出ていた時も、ずっと良いパフォーマンスを発揮できていたわけではない。度重なる監督交代の影響もありますが、結局は自分の出来が悪かっただけです。試合に出るには、とにかく実力が必要だと実感した約１年間でした」

　田中は高校３年生だった2020年シーズンの半ばに２種登録され、湘南でデビュー。2021年もチームの中心として活躍を続け、翌年夏まで出色の出来を見せ続けて、海外移籍を果たした。

　しかし、ベルギー移籍後は苦戦。本職の中盤だけでなく、湘南時代にも経験した３バックの左やサイドバックも経験ながら、出場は15試合、935分のみに留まった。本人が「力不足を痛感した」と語るのも納得できる。
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　プロ３年目での挫折を経て、今年の６月に湘南に帰還した。登録期間の問題で試合に出場できるのが最速で８月２日、天皇杯４回戦のセレッソ大阪戦。それだけにゲームに出られるまでの約２か月間は、海外で苦難の時期を過ごした悔しさと自信のなさを覗かせていたが、同試合で出番をもらうと、すぐに本来の実力を発揮した。現在も主力として、海外挑戦前と同様の輝きを放っている。

　出番を増やすなかで、田中は一時期失っていた「自信」を取り戻したのか。10月５日の練習後、本人に訊いてみると、次のように答えてくれた。

「試合には出ていますが、良い時も悪い時もあるから、自信というよりも、手応えと課題を感じつつ、試合の度に修正しながらやっています。ただ以前より、上手くいかなかったとしても、自信をなくさずにやれています。出られなくても、ミスをしても、自信を失ったら良いプレーができないので」

　自信満々にプレーすることで調子を上げる選手は確かにいる。だが、田中はそうではないと言える。自信は、時に過信にもなる。良い働きをしてもおごることなく、自らの課題と向き合って成長し続けるからこそ、高校３年生でデビューして以来、若手ながらJリーグで活躍できているのだろう。

　そういった姿勢を崩さずに戦い、窮地に陥るチームのJ１残留に貢献できれば、田中のさらなる飛躍につながるだろう。目標に掲げる２度目の海外移籍も見えてくるはずだ。

取材・文●岩澤凪冴（サッカーダイジェスト編集部）

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