天皇杯ではベスト４進出を果たしたが、リーグ戦は苦戦が続く川崎で存在感を高めつつあるのが今季加入したMFの瀬川祐輔だ。技術力を生かした川崎のサッカーに当初はやはり戸惑ったというが、８月に入って遂にリーグ戦で初先発を果たすと、ライバルは多いが、４－３－３の左ウイングをメインに、３－５－２の左ウイングバックや２トップの一角などでアピールを続けている。

　走って、守って、身体を張って、味方を助けながら、ゴールも奪える、まさに万能アタッカーは、川崎ではこれまで経験したことのない感覚を得ているという。チームに希望の灯をもたらす予感が漂う男の想いを、古巣戦となる湘南戦（９月24日／国立）の前に紹介する。

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　今年２月に生まれたばかりの愛娘を大事に抱きながら、男は等々力陸上競技場のピッチへと続く道をまっすぐに見つめていた。

　瀬川祐輔、29歳。群馬、大宮、柏、湘南で存在感を示してきた男が、今季、戦いの舞台に選んだのが覇権奪回を目指す川崎だった。

　第一子となる長女の誕生を発表したのは2023年のリーグ開幕戦の前日となる２月16日。なんと誕生日は瀬川と同じ２月７日だという“奇跡”にも背中を押されるように、新シーズンへ足を踏み出したのである。

　あれから約６か月を経た８月12日。23節、ホームでの神戸戦（●０―１）のスタートリストには、リーグ戦で初めて背番号30の文字が記された。ルヴァンカップや天皇杯では先発を勝ち取っていたが、リーグ戦では川崎の一員として初の選手入場だ。愛娘は緊張からか号泣していたというが、その姿にも愛おしさを感じながら瀬川はピッチへと歩を進めた。

「特別な感情があったわけでなく、それまでの試合とあんまり変わらなかったですね」

　もっとも周囲が注目していた“リーグ初先発”は、本人とっては大きな出来事ではなかったようだ。

「それまでスタメンで出られなかった悔しさですか？　うーん、そりゃもちろん悔しさはありましたよ。でも表現が難しくて…。言葉が適していないかもしれないですが、サブに慣れてしまっていた部分もあるかもしない。常に準備はしていましたが、サブも良い雰囲気でやっていましたし、途中から入った選手が試合の流れを変えることも多かった。

　だから、もちろん悔しい気持ちもありましたけど、その感情だけが占めていたわけでなく、良い準備をし続けようとポジティブにできていた面があったんです。限られた時間でしっかり仕事をできている自信もありましたからね」

　確かに瀬川は、３月４日の３節・湘南戦（△１－１／後半開始から出場）でチームを敗戦から救う移籍後初得点となる同点弾を奪うと、４月１日の６節・札幌戦（〇４－３／67分から出場）では終了間際に決勝弾をマーク。８月６日の22節・G大阪戦（●３－４／後半開始から出場）では２ゴールを挙げるなど、前述の神戸戦に先発するまで、苦境の川崎で、チーム３位となる５ゴールを重ねて気を吐いていたのだ。

　ゴールを奪った札幌戦直後のゲームで負傷し、４～５月に３週間ほど離脱。「良い流れができかけていただけに」と、当然ながらもどかしい日々もあったが、ルヴァンカップでも点を取ったことで、焦りも収まったという。ただし、複雑な心境も抱えていたようだ。

「自分の立場に対してネガティブなことはあまり考えていませんでした。ベンチだったとしても天皇杯とルヴァンカップもあったので、そこでアピールすれば良いと考えていましたね。焦っていないというか…。ただ一方でずっと悔しい気持ちと半々でもありました。気にしているようで、気にしていないようで、気にしているような。そういう狭間にいたと言いますか」

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