守備に専念し、攻め上がりを控えていた北城が数的優位の状況を見つけ出し……。
「出来はそんなに悪くなかったけど、サッカーは点を獲るかどうかという原理原則の差が出た」
敗れた富山一の大塚一朗監督がそう口にした接戦で、青森山田との間に大きな差はなかった。
試合のポイントとなったのは、両者のストロングポイントをいかに防ぐか、だった。
「相手の2トップがかなり強烈で、1本でも抜けられると危ない。多少蹴り合いになっても仕方ないので、常にDF4枚とボランチの住永翔は余り上がらないで、対応しようと伝えていた」
黒田剛監督がそう語ったように、青森山田が警戒していたのが富山一のカウンター。対する富山一は、強肩の持ち主であるDF原山海里のロングスローと189センチのDF常田克人を中心とするセットプレーでの高さを警戒していた。後半に入っても均衡が崩れなかったように、両者がとった策は正しかったと言える。
互いに睨みを利かせる時間が続き、PK決着も見え始めたなか、試合が動いたのは後半31分。「チームのコンセプトはチャンスの時以外は、なるべく攻撃を控えてカウンターを食らわない、負けないサッカー」とそれまでは守備に専念し、攻め上がりを控えていた青森山田の左SB北城俊幸が動いた。
すでに得点の予兆はあった。後半20分にFW田中優勢が投入されてから、これまでトップ下に入っていたMF神谷優太が左サイドに入ったことで、サイド攻撃が活性化していた。
「得点の場面は流れのなかでも自分たちが押している時間帯。ここで1点を獲らなければ、最後に相手の勢いにやられてしまう。畳み掛けて、人数をかけてなんとか1点を奪いたかった」と、MF高橋壱成からのサイドチェンジが神谷に渡ると同時に思い切り良く、左サイドを駆け上がった。
「チャンスだったら行けと言っていた。あそこは数的優位ができていて、背後にスペースができていたので、『行け!』と指示を飛ばして行かせた」(黒田監督)
指揮官の後押しも受けた北城は、左サイドで神谷のヒールパスを受けると、素早く左足を振り抜き、ゴール前に柔らかいクロスを入れる。「理想的な形」(北城)というボールを待ち構えたのは起点となった高橋だ。「すごく良いボールだったので、自分は合わせるだけだった」(高橋)と落ち着いて合わせた打点の高いヘッドでゴールネットを揺らすと、これが決勝点となり、準決勝進出が決まった。
勝負どころを逃さなかった北城の嗅覚が、接戦を制する要因となったのは確かだが、北城自身は「高1の時は初戦でPK負け、自分も出場した昨年も1回戦で敗れていたので、これまで選手権に対して、良いイメージが持ちにくかった。でも、今は逆転ゲームだったり、接戦をモノにすることができていて、チームが勢いに乗っている。ここで浮かれることなく、次の試合にやっていければと思う」と冷静さを失わない。
歓喜を爆発させるのはまだ早い。残り2試合も、北城の勝負の分かれ目を感じ取る嗅覚が必要になるはずだ。
取材・文:森田将義(サッカーライター)
【選手権PHOTOハイライト】三ツ沢/準々決勝 青森山田×富山一
敗れた富山一の大塚一朗監督がそう口にした接戦で、青森山田との間に大きな差はなかった。
試合のポイントとなったのは、両者のストロングポイントをいかに防ぐか、だった。
「相手の2トップがかなり強烈で、1本でも抜けられると危ない。多少蹴り合いになっても仕方ないので、常にDF4枚とボランチの住永翔は余り上がらないで、対応しようと伝えていた」
黒田剛監督がそう語ったように、青森山田が警戒していたのが富山一のカウンター。対する富山一は、強肩の持ち主であるDF原山海里のロングスローと189センチのDF常田克人を中心とするセットプレーでの高さを警戒していた。後半に入っても均衡が崩れなかったように、両者がとった策は正しかったと言える。
互いに睨みを利かせる時間が続き、PK決着も見え始めたなか、試合が動いたのは後半31分。「チームのコンセプトはチャンスの時以外は、なるべく攻撃を控えてカウンターを食らわない、負けないサッカー」とそれまでは守備に専念し、攻め上がりを控えていた青森山田の左SB北城俊幸が動いた。
すでに得点の予兆はあった。後半20分にFW田中優勢が投入されてから、これまでトップ下に入っていたMF神谷優太が左サイドに入ったことで、サイド攻撃が活性化していた。
「得点の場面は流れのなかでも自分たちが押している時間帯。ここで1点を獲らなければ、最後に相手の勢いにやられてしまう。畳み掛けて、人数をかけてなんとか1点を奪いたかった」と、MF高橋壱成からのサイドチェンジが神谷に渡ると同時に思い切り良く、左サイドを駆け上がった。
「チャンスだったら行けと言っていた。あそこは数的優位ができていて、背後にスペースができていたので、『行け!』と指示を飛ばして行かせた」(黒田監督)
指揮官の後押しも受けた北城は、左サイドで神谷のヒールパスを受けると、素早く左足を振り抜き、ゴール前に柔らかいクロスを入れる。「理想的な形」(北城)というボールを待ち構えたのは起点となった高橋だ。「すごく良いボールだったので、自分は合わせるだけだった」(高橋)と落ち着いて合わせた打点の高いヘッドでゴールネットを揺らすと、これが決勝点となり、準決勝進出が決まった。
勝負どころを逃さなかった北城の嗅覚が、接戦を制する要因となったのは確かだが、北城自身は「高1の時は初戦でPK負け、自分も出場した昨年も1回戦で敗れていたので、これまで選手権に対して、良いイメージが持ちにくかった。でも、今は逆転ゲームだったり、接戦をモノにすることができていて、チームが勢いに乗っている。ここで浮かれることなく、次の試合にやっていければと思う」と冷静さを失わない。
歓喜を爆発させるのはまだ早い。残り2試合も、北城の勝負の分かれ目を感じ取る嗅覚が必要になるはずだ。
取材・文:森田将義(サッカーライター)
【選手権PHOTOハイライト】三ツ沢/準々決勝 青森山田×富山一