昨年の準優勝校・前橋育英を退け、國學院久我山が初のベスト４進出を決めた。そのチームを昨年から牽引し続けているのが10番を背負う『久我山の牛若丸』・FW澁谷雅也だ。彼は今年、新たなポジションでその可能性を広げようとしている。
 
　李済華総監督が立ち上げたジェファFC出身の澁谷は、１年時から左ウイングとして確固たる地位を築いていた。彼の最大の武器は強烈なミドルシュート。左サイドからカットインして、右足から放たれる強烈な一撃は、何度も相手ゴールをこじ開けてきた。
 
　しかし、10番を託された今年、インターハイ予選を前に澁谷のポジションは左からセンターフォワードにコンバートされた。
 
「より動きを工夫しないといけないし、見える世界が全然違う。僕は身長が低い分、より動き出しを速くしたり、動き続けることで、大きなCBの懐に飛び込んでいくことを繰り返して、攻撃を活性化させたい」
 
　新たな居場所をすぐに受け入れ、躍動するために自分のプレーにイメージを張り巡らせる。高い打開力を持ち、自分の能力を知っているからこそ、アイデアと機動力に富んだ小柄なアタッカーはこのポジションにすぐに順応できた。
 
　選手権都予選こそノーゴールで終わったが、今大会に入ると、２回戦の明秀日立戦で先制弾、３回戦の神戸弘陵戦では、ゴール前のこぼれ球に鋭く反応して、チームを勝利に導く決勝弾を挙げた。
 
　３戦連発が期待されたこの試合では、前線で動き続け、中盤からのパスを引き出した。しかし、「プレスが厳しくて思うようなプレーはできなかったし、裏を取りづらかった」と口にしたように、アタッキングエリアで自由にやらせてもらえなかった。
 
　だが、それでもチームのオープニングシュートとなる強烈なシュートを放つと、後半12分には中央でボールを受けると、軽やかな反転から右サイドに飛び出したFW内桶峻に素早く展開。パスをもらった内桶がGKのニアサイドを破る豪快なミドルを沈めた。
 
　結果、澁谷自身はノーゴールに終ったが、内桶の決勝ゴールをアシスト。エースにふさわしい働きを見せた。
 
「タイミングをずらすトゥーキック、フリックなど、もっといっぱいアイデアがあるのに出し切れていない自分があります。それはまだまだ自分がセンターフォワードとして未熟なせい。もっと上にいくためには、この大会中にきっかけを掴まないといけないんです」
 
　さらにエースとしての凄みを身に付けるために。澁谷はこの大会を通じて、必死で成長しようとしている。その姿勢は必ず彼に大きなきっかけを与えてくれるはずだ。次なるステージはサッカー部史上最高となる選手権の準決勝だ。強豪・青森山田を相手に『久我山の牛若丸』が、己のレベルアップとチームの勝利を懸けて、軽やかに舞う。
 
取材・文：安藤隆人（サッカージャーナリスト）

【選手権PHOTOハイライト】三ツ沢／準々決勝　國學院久我山×前橋育英