初戦からいきなり２点を先行されるという窮地に立たされた青森山田だったが、この悪い流れをエースの一撃が打開した。
 
　青森山田の背番号10・神谷優太。優勝候補に推されるチームのエースにとって、この大会は、“最初で最後の選手権”だ。2015年１月に東京ヴェルディユースからやって来た彼は、青森山田に憧れ、かつOBの柴崎岳（鹿島）を「僕の理想」と語るように、偉大な先輩と同じ系譜を踏むべく、青森にやって来た。この１年間、神谷は自身に与えられた背番号10の意味について考え続けた。
 
「柴崎選手の背負った番号というだけで、すごく重みがあるし、緩慢なプレーは許されない。常に結果を出し、チームを勝利に導くのが当たり前。でも、いつも自分はその番号に見合った活躍ができているのかを自問自答しています」
 
　チームが苦しい時に結果を出す。初戦からまさにその真価が試されるシチュエーションとなった。前半32分、37分と立て続けに失点し、０-２という状況に追い込まれたが、神谷の目には相手ゴールがしっかりと映し出されていた。
 
　39分、右サイドからDF原山海里がロングスローを投げ込むと、ヘッドで流れたボールがファーサイドで待つMF嵯峨理久のもとへ。ペナルティエリア内にいた選手たちがボールウオッチャーになるなか、神谷だけは違った。
 
　素早くポジションを取り直し、嵯峨にダイレクトの落しを要求。その要求通り、嵯峨がダイレクトで落とすと、バウンドして浮いたボールだったが、上手く身体をかぶせながら、右足でダイレクトハーフボレーシュート。ボールは地を這うような軌道を描いて、ゴール左隅に突き刺さった。
 
　前半終了間際のこのゴールは、チームにとって大きな追い風となった。０-２のままでハーフタイムに入るのと、１点差にしてハーフタイムに入るのでは、チームの士気がまったく異なってくる。神谷の一撃は、チームメイトをたしかに勇気づけた。
 
　後半、神谷は２年生MFの高橋壱晟とともに、攻撃の中枢として君臨し続けた。56分に高橋のミドルシュートで同点に追いつくと、62分には高橋のパスを受け、MF田中優勢とのワンツーから左サイドを突破し、ファウルを獲得。左FKを自ら蹴るが、ここはGKのセーブに阻まれた。
 
　さらに72分には左サイドでDF北城俊幸のパスを受けると、カットインからゴール前に飛び込んだ味方へシュート性のラストパス。これはわずかに合わなかったが、大社ゴールを脅かし続けた。そして、後半アディショナルタイムに高橋が逆転弾。３-２の大逆転勝利の始まりは、間違いなくエースの一撃だった。
 
「１点は取ったけど、まだ貢献したとは思っていません」
 
　10番の重み、責務はこんなものじゃない。この１年間でそれを痛感し、真っ正面から向き合って来た神谷だからこそ、この結果に満足はできない。神谷にとっての“最初で最後の選手権”。悲願の初優勝を狙うチームの「10番」の責務を力に変えて、自問自答を続けるエースは、大きな一歩を踏み出した。
 
取材・文：安藤隆人（サッカージャーナリスト）