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移籍先はまず間違いなく…「覚悟は決めている。快くライスを送り出そう」【英国人記者コラム】

カテゴリ:連載・コラム

スティーブ・マッケンジー

2023年06月24日

子供が生まれたばかりでロンドンを離れたくないはずだ

今夏はいよいよステップアップの移籍が濃厚。ライスの新天地は、はたして? (C)Getty Images

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 ウェストハムのファンという贔屓目を抜きにしても、2022-23シーズンのデクラン・ライスは傑出していたと思う。守って、攻め上がって、文字通りすべての局面に関与していた。抜群のスタミナで、ボールがあるところに常にいた。

 周囲を助けて、全体のレベルを引き上げるそんなプレーぶりで、ピッチを支配していた。ビッグクラブがこぞって触手を伸ばしているのも納得だ。実際、あらゆる監督が自分のチームに欲しいと思う選手だろう。
 
 ファンからすれば、もう覚悟は決めている。快く送り出すつもりだ。十分にやってくれた。プレミアリーグ残留も、ヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)の優勝も、ライスがいなかったら成し遂げられなかった。本当なら1年前に移籍していてよかったのに、もう1年残って尽力してくれた。
 
 僕たちにとってデクランが特別なのは、ハマーズ(ウェストハムの愛称)に愛情を注いでくれたからだ。彼のロイアルティー(忠誠心)は純度100パーセント、本物だった。
 
 ウェストハムのU-18が優勝した4月のFAユースカップではこんなことがあった。アーセナルU-18との決勝、舞台となったエミレーツ・スタジアムにデクランは駆けつけてスタンドから後輩たちを見守った。結果は5-1の圧勝で、ハマーズは24年ぶり4回目の優勝を成し遂げた。すると、デクランは歓喜に沸くロッカールームを訪れ、若い選手たちと一緒になって歌い、踊った。まるで自分が優勝したかのように。
 
 ファンを思いやる温かさを見せたのは、5月のマンチェスター・ユナイテッド戦だ。デクランはマーカス・ラッシュフォードとユニホーム交換を約束していた。試合が終わって彼を探していると、スタンドに6歳くらいの男の子を見つける。声をかけてハグをすると、デクランはユニホームを脱いでその子に手渡し、もう一度ハグをした。

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 移籍先は、まず間違いなくアーセナルになるだろう。ユースアカデミーに所属して14歳まで過ごしたチェルシーがずっと有力だったけど、チームは酷い有り様で、中盤にはすでにクレイジーな投資をしているから、チェルシーが動くとは思えないし、本人も行かないだろう。
 
 なにより、メイソン・マウントがいなくなるのが決定的なファクターだろう。チェルシーのユースで一緒だった2人が親友だってことは周知のとおり。そのマウントと一緒にプレーしたいという気持ちが、チェルシーに行きたい動機だったから、親友がいなくなれば当然、移籍する理由がなくなる。マウントはマンチェスター・ユナイテッドと個人合意に達したという話だ。いずれにせよチェルシーに戻る気はないということだ。
 
 アーセナル移籍説を後押しするもうひとつの理由は、ロンドンだから。子供が生まれたばかりで、生活基盤を移したくはないという気持ちは十分に理解できる。両親や祖父母もいて、もともと家族を大切にしているから、その意味でもロンドンは離れたくないはずだ。
 
 最高の幕切れとなったのがECL決勝だった。6月7日、ウェストハムは2-1でフィオレンティーナを下して優勝、クラブにとって58年ぶりのヨーロピアンタイトルを勝ち取った。ジャロッド・ボーウェンが決勝ゴールを叩き込んだのが90分。ルーカス・パケタのスルーパスが見事なら、あの場面で決めてみせるボーウェンも素晴らしかった。これで心置きなくライスを送り出せる。
 
 ところで、このファイナルにはひとりの人物が招待されていた。会場となったプラハのエデン・アレーナは収容人数が2万人弱と小規模で、両チームへのチケットの割り当ても4000枚ほどと限られた。その貴重な1枚をクラブから授かった特別ゲストというのが、クリス・ノール、通称ノールジーというひとりのサポーターだ。58歳のこのノールジー、ハマーズにとんでもない貢献を果たしていたのだ。
 
 準決勝のAZ戦、アウェーの第2レグだった。試合終了直後のスタンドが、にわかに殺気立つ。負けたAZサポーターの一部が暴れ出し、ウェストハムの関係者席に襲いかかってきたのだ。そこには選手の家族や知人がいる。咄嗟に応戦したのがノールジーだった。
 
 危険を顧みず、パーカーのフードを被って「蟻のように群がり来る」(ノールジー談)暴漢たちに立ち向かい、顔面にパンチを喰らいながらも身体を張って選手の家族を守ったのだった。
 
 この英雄的行為にファンからの称賛が止まず、「ヒーローをファイナルに連れて行かずにどうするんだ」という声にクラブが応え、ノールジーを決勝に招待したのだ。
 
文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)
 
Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年7月6日号より転載
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