またしてもロシア・サッカー界で愚行が繰り返された。

　現地２月25日、ロシアの国内カップでヴォルガとゼニト・サンクトペテルブルクが対戦。アウェーのゼニトが３－０の快勝を収めて、次のラウンドに駒を進めた。

　不穏な空気に包まれたのは、試合終了間際だ。敗色濃厚な状況にヴォルガの地元サポーターが騒ぎ出し、雪の球やペットボトルをピッチに投げ込むなどカオスと化した。場内アナウンスの呼びかけにも関わらず蛮行は続けられ、なんとか試合はタイムアップ。だが、スタンドから放たれたひとつの異物が大きな波紋を広げたのだ。

　投げ込まれたのは一本のバナナ。その先にはゼニトの元ブラジルU-23代表ＭＦヴェンデルがいた。黒人選手をサルのごとく揶揄する人種差別的なアクションであり、ロシアではこの10年間で頻発している。『Sport24』によると、ショックを受けたヴェンデルはバナナを一蹴りしただけで、足早に控室へ引き上げたという。

　ヴォルガのミハイル・ナボロキン会長はすぐさま声明を発表。「あり得ない事態が起こり、ヴェンデル選手とゼニトに深くお詫びする。会場のビデオをチェックして投げ込んだファンを特定し、相応の対応をすると約束したい。極めて恥ずべき行為だ」とのコメントを寄せた。

　遠くブラジルでこの一報を聞きつけたのが、ヴェンデルの代理人であるチアゴ・リベイロ氏だ。『Sport24』の電話取材に応じると、「バナナを投げつけられたって？　なんて愚かな人種差別だ！　そんな人間にはもはや同情しかない」と吐き捨てた。

　ちょうど試合の前日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が国内に滞在する外国籍38名に対して、ロシア国籍を付与すると公表した。ゼニトに所属する７人のブラジル人選手のうち、ＦＷマルコムとＭＦクラウジーニョがそのリストに名を連ねた。ゼニトは他の５選手の帰化も申請しており、ヴェンデルはそのうちのひとりだ。

　しかし、「ロシアへの帰化を希望するか？」と問われたリベイロ代理人は「ヴェンデルの気持ちを考えてみてほしい。ロシア国籍を望むと思うかい？　もはやあり得ないよ」と断言した。
 

　バナナにまつわるエピソードとしては、2011年６月の事件が有名だ。

　当時ロシアのアンジ・マハチカラでプレーしていた元ブラジル代表ＤＦ、ロベルト・カルロスが試合中にバナナを投げ込まれた。そっと拾い上げてピッチ外に放り出すと、ショックのあまりプレー続行ができずにみずからピッチを去ったのだ。その３か月前にも観客からバナナを手渡される屈辱を受けていたロベカル。試合後の会見では涙を浮かべながら、「二度目だぞ！ なぜそんな仕打ちをするのか。心の底から悲しい」と改善を訴えた。

　FIFA（国際サッカー連盟）からも戒告を受けたロシア・プレミアリーグは、人種差別撲滅をスローガンに掲げて、問題を起こしたファンに入場禁止処分を科す、あるいは警察に引き渡すなど断固たる態度を示してきた。だが今回の一件のように、とりわけ地方のスタジアムでは、いまだ差別的なアクションが繰り返されている。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

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