[J１第31節]広島４－１浦和／10月１日／エディオンスタジアム広島

　83分の直接FKは、ピッチ中央やや左の位置でゴールまで30メートル近くの距離があった。直接狙うには遠い距離だったが、満田誠はこのチャンスを待っていた。

　試合後、ミックスゾーンに現われた佐々木翔が、そのことを教えてくれた。

「マコ（満田）のために、１つだけ言っていこうかな。あのゴールはハーフタイムに宣言していました。『狙っていいですか？』『ゴールキーパーが前に出てるんですよ』って。だから、あれは思い付きじゃなくて、めちゃめちゃ狙っていたゴールです」

　内幕を知らされ、さらに驚いて満田を囲んだメディアの前で、本人はゴラッソを解説する。

「後半が始まる前に円陣を組んだ時にみんなに言ったら、OKをもらえたんで思い切って狙うことができました」

　ハーフタイムでロッカールームへ戻った時、ピッチサイドで試合を見ていた川浪吾郎も「狙え！」とアドバイスしてくれた。ボールをセットした時に野津田岳人も「狙っちゃえよ！」と言って背中を押してくれた。

「先輩が後押ししてくれたんで、気持ち良くゴールを決めることができました」

　ゴラッソは満田のキック技術と判断力が生んだだけではなく、チームメイトの温かい後押しがあったおかげでもあった。
 

　この得点が今季リーグ戦８得点目。クラブ新人最多記録を更新した満田は、ファミリーへの感謝も口にした。

「本当に光栄なことです。１年目からこれだけの結果を出せたのは、自分自身だけの力じゃない。チームメイトを含めて、サポーター、スタッフの皆さんのおかげだと思うので、本当にサンフレッチェ広島に入団できて、プレーできていることを誇りに思います」

　今季開幕時から掲げてきた目標の二桁得点・二桁アシストも現実的なものになった。ここまで８得点・８アシストをマークしてきたアタッカーの凄さをさらに深く認識したのは、この日、J１通算550試合出場の節目を迎えた浦和のGK西川周作が、直接FKによって喫した失点について言及した時だった。

「（セットプレーを蹴る満田が）前半からファーを狙っているのは感じていて、あれも１つ駆け引きでした。彼の助走の入り方もうまかったです。最後のところで力を入れてニアを狙ってきた。そこは本当に駆け引きがありましたし、彼の良さだと思います」

　前半から２人は心理戦を行なっていた。６分、左サイドからのFKは、キッカー満田がファーサイドを狙って蹴ったボールを西川がパンチで弾いてCKへ逃げている。それ以降も探り合いが行なわれたなかで、83分の得点シーンで満田は、西川を駆け引きで上回った。

　末恐ろしい23歳のアタッカーだが、36歳のGKも矜持（きょうじ）を滲ませた。

「今の自分のポジショニングは、今年から新たに取り入れてやっていること。今までのポジショニングと変わったから、クロスボールの対応だったりにつながっている。失点したからといって、１番やったらいけないことはポジショニングを戻すこと。失点するかもしれないけど、確率を減らすことを今はゴールキーパーチームでやっているし、この失点から学ぶことができれば、価値ある失点だったかなって思います」

　西川もまだまだトライ＆エラーを繰り返しながら高みを目ざしていた。この試合で２ゴールを挙げる活躍を見せた新進気鋭の満田と百戦錬磨の西川。２人の次回の攻防が今から楽しみでならない。

取材・文●寺田弘幸（フリーライター）

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