【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十九「“教える”と“伝える”の差」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年10月08日

トップダウンでの波及効果が、日本では圧倒的に少ない。

欧州の少年たちにとっては、日常の延長線上にメッシらスーパースターがいる。一方、日本ではJリーグの試合を観る環境が整っているとは言えない。(C)Getty Images

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 伝える。
 
 それはサッカーというスポーツにおいて、基本的要素と言える。指導者が選手に対する時も、その逆も、選手同士でも当然そうだし、あるいは選手とメディアの関係でも同じだろう。
 
 お互いのコミュニケーションに隔たりや食い違いがあった場合、良好な関係は保てないし、生産性は低くなってしまう。
 
 とりわけ、大人から子どもに伝える、という行為は困難を極める。もし日本サッカーの育成が欧州や南米に劣っている点があるとすれば、それは日常生活における伝達行為に潜んでいるかもしれない。
 
 欧州や南米の選手たちは日本人選手について、「技術も体力もあるけど、戦術能力が低い」と意見する場合が多いが、それは子ども同士のゲームでも共通している。相手と向き合って戦った際に濃厚に出る戦術的誤り、あるいは誤りとまで断言しないとしても、それは欧州や南米の子どもたちとの環境差に通ずる。
 
 というのも欧州や南米の少年たちは、幼い頃から大人のプレーを日常的に見て、矛盾のない動きがすり込まれている。言い換えれば、正しい動き方が意識や肉体に伝わっているのだ。
 
「メッシやイニエスタのようにプレーしたい」
 
 子どもたちの日常の延長にはスーパースターがおり、彼らはそれを嬉々として手本とし、練習や遊びの中で繰り返して、自らにすり込ませている。
 
 この伝わり方の差は大きい。
 
 日本ではJリーグを観られるのは、限られた家庭である。欧州サッカーに関しても似たような環境だろう。スポーツニュースにしても、サッカーが大きく取り上げられるのは代表のゲームだけであって、週末の試合の報道は限定的である。また、どの町にもスタジアムがあるわけでもない。
 
 トップダウンでの波及効果が、日本では圧倒的に少ないのである。
 
 つまるところ日本では、伝えるという部分を、指導者が“教える”という行為に転換せざるを得ない。しかし、伝えるのと教えるのとは本質的に違う。伝える、という行為には、伝える側だけでなく受け取る側の意志も強く働くが、教えるというのは受け取る方は受動的である。そもそも、教える役を果たす人が必ずしも正しいとは限らない。
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