普段はあまり感情を表に出さないクールな高木俊幸が、吠えて、叫び、喜び、無邪気に笑った。

【J１ PHOTOハイライト】浦和 １-０ 柏
 
　どれも浦和に来て、初めて見せた表情だった。いや、清水時代にもなかった感情の発露だったのではないだろうか。
 
　第２ステージ10節・浦和－柏戦の土壇場、こう着状態を打破し、劇的な決勝点をもたらしたのは高木の右足だった。
 
　柏の布陣は時間が経つごとに守備に重心が置かれていった。試合終盤のシステムは５-４-１。工藤以外の10人がゴール前を固めた。GK菅野があからさまな時間稼ぎをするなど、リズムを取り戻せないなかで“０-０の引き分けでOK”という戦い方をしてきた。
 
　柏のカウンターを警戒しながらも、ボールポゼッションで圧倒していた浦和は、あとは点を決める“主役”の登場だけが待たれた。
 
　迎えた88分、槙野の攻撃参加からDFに当たったこぼれ球を、シャドーとして途中出場していた高木が拾う。高木は中央へカットインしながら、キム・チャンスと近藤の緩いマークの間隙を縫ってシュートを放つ。
 
　ゴールの隅にコントロールされたボールは、GK菅野の前でイレギュラーにバウンドする。そしてゴールネットを揺らした。リーグ戦出場15試合目、待望の初ゴールが、この切羽詰まった大事な局面で生まれたのだ。
 
　高木はゴールを決められた要因に、「積極性」を挙げた。
 
「これまで運から見放されてきたけど、GKの前でボールがバウンドしてくれてラッキーだった。ただ、あの位置まで押し込む過程で、球際に強く行けていたし、その流れから迷わずシュートを打つことできた。打たなければなにも起きなかった。
 
　ゴールが決まった、というのを確認するまでに時間が掛かった。（駆け寄ってきた）槙野くんの笑顔を見て、本当に決まったんだと分かった（笑）」
 
　そしてスタジアムに轟いた浦和サポーターの熱い声援を受けて、「期待してくれていた気持ちが、とても嬉しかった」。
 
　ペトロヴィッチ監督の辛抱強い起用が結実した点も見逃せない。指揮官は第２ステージに入り、必ず高木をメンバーに入れてきた。
 
　その理由を次のように明かす。
 
「トシはピッチに立てば１試合に最低一度ビッグチャンスを作っている。いつかはゴールを決めるはずだと思っていた」
 
　実際、高木はこの柏戦をベンチで見つめながら、「自分がゴールを決めそうだ」と予感したと言う。
 
「ずっといい形を作れていたけれど、前線が決め切れず、難しい試合になっていた。自分がピッチに立つ時が来れば、決めるしかないと思っていた。
 
　今回は昂ぶることなく、落ち着いて試合に入れて、なんだか『ゴールが決まるかな』とは思った。これまでポストに当たったりして運がなかったけど、それでも積極的にシュートを打っていったことで結果につながった」