世界へのターゲットは定まった。U－19日本代表は、U－20ワールドカップ・インドネシア2023に向けて歩みを始めている。

　３年前のU－17W杯（ブラジル）に出場しているDF中野伸哉は、世界を肌で知る貴重な存在としてチームの主軸になろうとしている。来月中旬にはフランスでモーリスレベロトーナメント（旧トゥーロン国際大会）が控えており、「久しぶりの国際大会で海外のスカウトもたくさん来ると思うので、結果にこだわってやっていきたいと思います」とモチベーションは非常に高い。

　中野の最大の武器は左右両足から放たれるハイクオリティなキックにある。サガン鳥栖では左サイドを任されることが多いが、先日のU－19日本代表の千葉合宿では右サイドバックとしてプレー。中へ積極的に入っていって得意の左足のクロスや対角のパス、シュートを狙うなど、新たな可能性を感じさせた。

「もっと中に入ってチャレンジしようと思った。縦との関係で中に入るとか意識しました。僕が内や外にいることで攻撃のバリエーションが増えると思う」

　明るい表情を見せたが、常に飛び級で世代別日本代表に選ばれ続けてきた中野は現在、鳥栖では思うように出番機会を掴めていない。

　2020年８月１日のJ１第8節・FC東京戦で途中出場。クラブ史上最年少となる16歳11か月15日のプロデビューとなった。この年はリーグ戦14試合に出場した。昨季は開幕スタメンの座を掴むと、その後は不動のレギュラーとして存在感を放つ。３月には高２で東京五輪を目指すU－24日本代表に選出されるなど、一躍『時の人』となった。

　しかし、東京五輪メンバーから外れると、それ以降は鳥栖でも出場時間が減っていった。

「本当に挫折だと思います。技術、攻撃のレベルを上げて、守備のレベルをもっと上げたい。ワンランク以上、上げていかないと五輪、A代表には到底入れないと思います」

　以前、話を聞いた時、中野はこう口にしていた。今年に入っても11節を消化してスタメン２試合、途中出場が４試合と定位置を掴み切れていない。まだ苦しい時期は続いているが、その目の色はより濃くなっているような気がした。それは今年高校を卒業し、『高校生』という言葉が外れた彼の覚悟と決意の表われでもあるのだろう。

「高校生だからと言われるのが嫌でしたね。平等な見られ方で競争をしたいと思っていたし、何をしても高校生と言われて、それを言われる度に、正直、『舐められているな』と思っていました。プロの世界で年齢は関係ないと思っているので」
 

　五輪代表やA代表に対する思いも変わってきた。中野はU－19日本代表の主軸であると共に、パリ五輪を目指す選手の一人でもある。ただ、実は昨年、東京五輪のピッチに自分が立つ可能性を見出せずにいた。

「チャンスを拾う以前の問題だった。あの輪の中に僕が入って『貢献できるのか？』と問われたら『できます』と言えなかった」

　でも、今は違う。「この世代で、いないと困る、と思ってもらえる選手にならないといけない」と、U－20W杯はもちろん、その先にあるパリ五輪、さらにはA代表も狙っている。

「左右両足蹴れるという強みをもっと出していきたい。こうして代表で自分の色を出せるのは武器だと思っているので」

　前向きに、力強く。中野伸哉は新たなる一歩を踏み出している。

取材・文●安藤隆人（サッカージャーナリスト）

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