２月18日に開幕したJリーグだが、ワールドカップシーズン、初めて訪れる人も少なくないだろう。

　現在のJリーグで一番、スタジアムに足を運んで見る価値があるサッカー選手は誰だろうか？

　それは、スペイン代表、FCバルセロナの主力としてあらゆる栄光を手にしたMFアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)である。イニエスタは、ピッチにおける特別な存在と言えるだろう。ボールを受け、弾き、再び受け、プレーの渦を作る。そのクオリティの点で、他の追随を許さない。

　肉体的には強くも速くもないし、足は杖のように細く、身体もしまってはいるが小柄で、スポーツ選手というよりは仙人のように映る。しかし、サッカーの技術を凝らした異次元のプレーは、大げさではなく神がかっている。わずかなポジション取りの違い、相手の逆を取るコントロールや身体の動きで、魔法をかけたように敵と入れ替わり、決定的パスを送ってしまう。彼から放たれたボールにはメッセージが込められ、次のプレーを促される。それは芸術作品だ。

　全盛期のイニエスタは、５人の有力選手に一斉に襲い掛かられても、その局面を乗り切るプレーを見せた。

「敵の選手が自分に集まれば、それだけ他の選手が自由になる」
　
　イニエスタは信条を語っていたが、数的不利を作ることによって、数的優位を作る戦いは最高難度。それを実現できるだけの技術とビジョンを備えているのだ。
　
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　37歳になった今、昔と同じではない。しかし今もコントロール＆キックに狂いはなく、味方にアドバンテージを与えられる。今のJリーグに、まともにイニエスタを止められる選手はいない。

　今シーズンはイニエスタの負担を最小限にするため、トップ下に固定されることになるか。中盤はダイヤモンドで、他の３人が守備の仕事は分担。攻撃面で力を最大限に発揮させる布陣だ。

　Jリーグを見たことがない人は、試合中もイニエスタの動きを見続けるだけで、「サッカーの仕組み」が少しわかるだろう。彼を起点にプレーの始まりがある。たとえコンディション不調から失敗が多発した試合に当たっても、どこかにサッカーの原理を感じられるだろう。

「アンドレスからのパスを受けることで、うまくなっている気がする」

　神戸の選手の多くが、そのインパクトを語っている。タイミング感覚、技術精度の高さが「正しいプレー」を伝える。古橋亨梧はスコットランド、セルティックで活躍しているが、恩恵を受けた一人だ。

　イニエスタは一人だけの活躍でゴールを奪う選手ではない。しかし、一本のパス、わずかに持ち出すだけのドリブルが状況を打開し、チーム全員のプレーを改善させる。その存在はサッカーそのもので尊い。

　その姿を拝めるのは、Jリーグの特権だ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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