欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝トーナメント１回戦でスペインの伏兵ビジャレアルは第１レグ、本拠地でイタリアの強豪ユベントスと対戦している。

　クラブ規模や歴史を考えれば、どう考えても分が悪いだろう。ビジャレアルは世界的タイルメーカーの会長のバックアップを受け、長期的なビジョンでクラブを強化し、結果も残してきたが、バレンシア州カステジョン県の中にある人口５万人の小さな町に過ぎないのだ。

　しかも、ビジャレアルはエースであるジェラール・モレーノが不在で、立ち上がりに先制点を許している。今や欧州屈指のストライカーとして、100億円以上の移籍金でやって来たセルビア代表ドゥシャン・ヴラホビッチに一発を叩き込まれてしまった。スペイン代表の新旧センターバック、パウ・トーレス、ラウール・アルビオルが二人掛かりでも虚を突かれるほどの一撃で、世界トップレベルの素材の底知れなさを思い知らされている。

　ホームでの一戦とはいえ、この１点で怯んでしまい、立て続けに失点を食らってもおかしくはなかった。ユベントスはけが人が続出していたものの、それだけの戦力を有していた。少しでも気持ちが挫けていたら、雪崩を打っていただろう。

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　しかし、ウナイ・エメリ監督が鍛え上げたチームは、じわじわと巻き返すだけの力を身につけていた。ヴラホビッチ一人の対応にも苦しみ、ラインが下がらざるを得ないシーンもあったが、しつこく球際を戦って、互角以上の勝負を演じている。

　そして後半、相手を押し込んだ時間帯で、伏兵の強さを見せつけた。波状攻撃を敢行。相手ボールになった後、ヴラホビッチに入ったボールをアルビオルが力強くカット。このボールを再び前につけた時だ。

　ほんの一瞬だが、ユベントスの選手たちが悉く立ったままでボールウォッチャーになってしまった。ボールの出し手であるエティエンヌ・キャプーに対する寄せが甘くなる。バックラインも統制がきかず、ぽっかりとスペースを開けてしまった。そこにダニエル・パレホに侵入されてしまい、呼び込んだボールを叩き込まれた。
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　ビジャレアルはチームとしての練度が高く、メンタル面で落ち込むことがなかった。そのおかげで、強大な敵に対しても怯まず、互角以上に戦うことができた。

　その後、ビジャレアルはヴラホビッチの一発に脅かさながらも、１-１のままで第１レグを終えている。ホームでのドローは、やはり分が良いとは言えない。しかし、第２レグのもう一つの90分も粘り強く戦うことできたら、金星を挙げることも不可能ではないだろう。

　日本サッカーが世界と戦っていく上で、ビジャレアルの戦いは一つのお手本とすべきものかもしれない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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