昨年同様、全国で最も早くインターハイの代表校が決まった鹿児島県。激戦の同県を制したのは、２年連続で鹿児島実となった。
 
「今年は昨年のチームに比べると、チーム全体の気迫が足りない」。
 
　チームの指揮を執る32歳の青年監督である森下和哉監督はこう語っていたが、地区予選で彼らが見せたものは、そうしたネガティブな指摘を微塵も感じさせないプレーであった。
 
　準決勝の鹿児島城西戦。相手の縦に速いサッカーに苦しんだものの、Jリーグのスカウトが注目するCB大南拓磨を軸とした守備陣が踏ん張り、後半にFW大下翔が挙げたゴールを守りきって、決勝進出を果たす。
 
　神村学園との決勝戦でも、相手の巧みなボールポゼッションの前に、思うようにペースを掴めなかったが、ここでも大南と山田正稔のCBコンビを軸に、堅実なチャレンジ&カバーでピンチの芽を摘み続けた。
 
　後半立ち上がりの１分に一瞬の隙を突かれ、先制点を与えてしまうが、ここから彼らの気迫は落ちるどころか、増す一方だった。大下、左の山口侑晟、右の仙波柊人のアタッカー陣が果敢に最終ラインの裏のスペースを狙うと、左の和田鉄男、右の前田将吾の両SBも攻撃参加を仕掛け、徐々に神村学園を押し込んでいく。
 
　終盤には大南をFWに上げ、大下との２トップにして、さらに圧力を強めると後半27分、右CKからゴールになだれ込み、最後は山田が執念で押し込んでついに同点に追いつく。
 
　そして延長後半１分には再び右CKの流れから、最後は大南のクロスがそのままゴールに吸い込まれ、逆転。これが決勝点となった。
 
「もう勝ちたいという気持ちしかなかった」と、殊勲の大南が笑顔で語ると、「これが鹿実の魂ですよ。選手たちは『これぞ鹿実』という気迫を見せてくれた。今年初めての逆転試合で、気迫が足りないと思っていた選手が、ここまで強い気持ちで戦ってくれたことは、結果以上に大きな収穫」と、森下監督は目に涙を浮かべた。
 
　もともと今年のチームは、昨年のチーム同様に前評判が高いチームだった。GK池元宗平、大南と山田のCBコンビを中心に守備は堅く、攻撃陣も大下と仙波のアタッカーコンビに、ドリブラーの山口、トップ下の玉城敦也ら多彩なタレントを揃え、攻守にバランスが取れている。そこに足りないと言われてきた『気迫』が加わったことで、さらなる進化を遂げようとしている。
 
「なかなか全国に出られない時期が続いたけど、昨年のインターハイでベスト８に入って、ようやく東福岡や大津といった九州のライバルとともに、全国の上位を狙えるチームになれた。今回ももっと上を目指して、全国のみんなに『九州に鹿実あり』を印象づけたい」（森下監督）。
 
　昨年のインターハイに出場するまで、鹿実は９年もの間、全国から遠ざかっていた。昨年、就任３年目を迎えた森下監督のもとで名門復活を印象付け、さらに上位を窺う基盤はできつつある。チームスローガンである『疾風怒濤』の旗のもと、真っ赤なユニホームに身を包んだ薩摩隼人たちが、兵庫の地でのさらなる躍進を誓う。
 
取材・文：安藤隆人