「天皇杯で続出するJ1勢の早期敗退。トップリーグに所属するプライドはないのか」(セルジオ越後)

J1チームの早期敗退が相次いだ今年の天皇杯。「波乱」もあまりに多過ぎては、各チームの本気度が問われることになりそうだ。写真は、3回戦で清水が札幌を2-1で下した試合。(C) SOCCER DIGEST
越後 確かにまだ21年ですね。でも、スタートした時のJリーグは、今よりもっと子どもたちにとんでもなく大きな夢を抱かせていたと思いますよ。
村井 今でも男の子がなりたい職業のナンバーワンは、3年連続でサッカー選手なんですよ。ただ、経営環境は大きく変化しました。Jリーグ創設後の流れとして、これは日本だけの問題ではなく、衛星デジタル放送の普及とボスマン判決(注/95年12月に出された判決で、契約が満了したEU加盟国の選手は、EU域内の他クラブへの移籍が自由化された)によってヨーロッパへのお金と人材の一極集中の構造ができ上がった。
もちろん、こうした世界全体の潮流の中でもJリーグとして生き残っていくために、策を練らなければいけません。スター選手をJリーグのトップクラブが獲得しながら、いかに健全経営をしていくのか。
例えば、浦和は親会社からの損失補填契約をすでに結んでいませんが、彼らのように自分たちの入場料収入をベースに、自分たちでリスクを取りながらやっていこうというものです。その延長にもなるのが、今回のセレッソ大阪のフォルラン選手の獲得だと思っています。
また、Jリーグのクラブはヨーロッパの一部クラブのような採算度外視のパトロンシップで運営されているのではありません。普通の経済活動のなかでリターンが求められないものは、短期間なら続くかもしれませんが、20年、30年となると続かないと思っています。だから私は、大きな企業が母体のクラブだろうが、少額スポンサーを多く集めるクラブだろうが、Jリーグにきちんと投資をしてくれる方に対して「赤字を長期間認めてください」とは言えないし、それではリーグが続かないと思うんです。
だから、ドイツのファイナンシャル・フェアプレーのように、健全経営をする必要があるだろうと。これをやることで、レアル・マドリーのようなクラブは生まれないかもしれないけど、戦力が均衡して、どの試合もヒートアップした戦いが行なわれるという面もある。僕は、この状況も、リーグの成長のプロセスの中の一つの段階だと思っています。
越後 最後に、ワールドカップ後に行なわれた天皇杯の2回戦で鹿島、神戸、仙台が、3回戦で浦和、川崎、柏、横浜、新潟と、合わせて8つのJ1クラブが下のカテゴリーのチームに敗れました。「波乱」と言えば聞こえはいいけど、これだけ起きると偶然ではないし、トップリーグに所属するチームとしてのプライドはないんですかね。みんながメンバーを落としてカップ戦を戦い、負けていく。まるで勝負を捨てているような戦い方は、天皇杯を軽視しているようにしか見えない。そんなに魅力がないタイトルなら、優勝チームにACLの出場権を与えるのを止めたほうがいいですね。
村井 勝負事だから、ジャイアントキリングは時に起こり得るのですが、天皇杯は日本を代表する重要な大会です。J1クラブが油断していたとは思いませんが、常に勝利を義務づけられているプレッシャーはあるでしょう。
また、来年以降の開催時期を含めて、天皇杯とJリーグの関係については、ちょうど今、検討しているところなんです。私は天皇杯もそうですが、絶対に負けてはいけないのはACLだと思っています。ACLも結局、今年はベスト16から上に1チームも行けなかった。アジアトップを目指すJリーグとして、こんなに残念なことはない。
ACLはオフィシャルの国際大会ですから、貴重な国際経験の場でもあるし、日本のサッカーを強くするためには欠くことのできないタイトルです。そしてその先にあるFIFAクラブワールドカップで世界のトップクラブと闘うことは極めて重要な目標です。まずはACLで勝てるように、リーグ戦、天皇杯も含めて資金面や日程を調整しなくてはと思っています。
取材・文:谷沢直也(週刊サッカーダイジェスト編集長)
■プロフィール■
むらい・みつる/1959年8月2日生まれ、埼玉県川越市出身。早稲田大卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)に入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。08年から日本プロサッカーリーグ理事(非常勤)を務め、2014年1月にJリーグ第5代チェアマンに就任した。
セルジオ・えちご/1945年7月28日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身の日系2世。18歳でコリンチャンスと契約し、ブラジル代表候補にも選ばれた名手。72年に来日後は藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。引退後は「さわやかサッカー教室」で全国を回り、サッカーの普及に尽力。『週刊サッカーダイジェスト』で連載中のコラム「天国と地獄」は辛口で人気を博す。
村井 今でも男の子がなりたい職業のナンバーワンは、3年連続でサッカー選手なんですよ。ただ、経営環境は大きく変化しました。Jリーグ創設後の流れとして、これは日本だけの問題ではなく、衛星デジタル放送の普及とボスマン判決(注/95年12月に出された判決で、契約が満了したEU加盟国の選手は、EU域内の他クラブへの移籍が自由化された)によってヨーロッパへのお金と人材の一極集中の構造ができ上がった。
もちろん、こうした世界全体の潮流の中でもJリーグとして生き残っていくために、策を練らなければいけません。スター選手をJリーグのトップクラブが獲得しながら、いかに健全経営をしていくのか。
例えば、浦和は親会社からの損失補填契約をすでに結んでいませんが、彼らのように自分たちの入場料収入をベースに、自分たちでリスクを取りながらやっていこうというものです。その延長にもなるのが、今回のセレッソ大阪のフォルラン選手の獲得だと思っています。
また、Jリーグのクラブはヨーロッパの一部クラブのような採算度外視のパトロンシップで運営されているのではありません。普通の経済活動のなかでリターンが求められないものは、短期間なら続くかもしれませんが、20年、30年となると続かないと思っています。だから私は、大きな企業が母体のクラブだろうが、少額スポンサーを多く集めるクラブだろうが、Jリーグにきちんと投資をしてくれる方に対して「赤字を長期間認めてください」とは言えないし、それではリーグが続かないと思うんです。
だから、ドイツのファイナンシャル・フェアプレーのように、健全経営をする必要があるだろうと。これをやることで、レアル・マドリーのようなクラブは生まれないかもしれないけど、戦力が均衡して、どの試合もヒートアップした戦いが行なわれるという面もある。僕は、この状況も、リーグの成長のプロセスの中の一つの段階だと思っています。
越後 最後に、ワールドカップ後に行なわれた天皇杯の2回戦で鹿島、神戸、仙台が、3回戦で浦和、川崎、柏、横浜、新潟と、合わせて8つのJ1クラブが下のカテゴリーのチームに敗れました。「波乱」と言えば聞こえはいいけど、これだけ起きると偶然ではないし、トップリーグに所属するチームとしてのプライドはないんですかね。みんながメンバーを落としてカップ戦を戦い、負けていく。まるで勝負を捨てているような戦い方は、天皇杯を軽視しているようにしか見えない。そんなに魅力がないタイトルなら、優勝チームにACLの出場権を与えるのを止めたほうがいいですね。
村井 勝負事だから、ジャイアントキリングは時に起こり得るのですが、天皇杯は日本を代表する重要な大会です。J1クラブが油断していたとは思いませんが、常に勝利を義務づけられているプレッシャーはあるでしょう。
また、来年以降の開催時期を含めて、天皇杯とJリーグの関係については、ちょうど今、検討しているところなんです。私は天皇杯もそうですが、絶対に負けてはいけないのはACLだと思っています。ACLも結局、今年はベスト16から上に1チームも行けなかった。アジアトップを目指すJリーグとして、こんなに残念なことはない。
ACLはオフィシャルの国際大会ですから、貴重な国際経験の場でもあるし、日本のサッカーを強くするためには欠くことのできないタイトルです。そしてその先にあるFIFAクラブワールドカップで世界のトップクラブと闘うことは極めて重要な目標です。まずはACLで勝てるように、リーグ戦、天皇杯も含めて資金面や日程を調整しなくてはと思っています。
取材・文:谷沢直也(週刊サッカーダイジェスト編集長)
■プロフィール■
むらい・みつる/1959年8月2日生まれ、埼玉県川越市出身。早稲田大卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)に入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。08年から日本プロサッカーリーグ理事(非常勤)を務め、2014年1月にJリーグ第5代チェアマンに就任した。
セルジオ・えちご/1945年7月28日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身の日系2世。18歳でコリンチャンスと契約し、ブラジル代表候補にも選ばれた名手。72年に来日後は藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。引退後は「さわやかサッカー教室」で全国を回り、サッカーの普及に尽力。『週刊サッカーダイジェスト』で連載中のコラム「天国と地獄」は辛口で人気を博す。