実力以上のものを出し切っても本大会行きには力不足だった…。
――どんな言葉を使えばいいのだろうか。著名な作家なら、あの瞬間の気持ちをどのように表現するだろう。そもそも、あの瞬間の気持ちを再現することは可能だろうか。
九分九厘、99パーセント、限りなく実現に近づいていた日本の夢は、またしても、そして突然、消えた……。
滑り出しはいたって快調だった。6分、長谷川のドリブル、中山のクロス、長谷川のシュートと3つのプレーが流れるように連なり、バーを叩いたボールは、まるで狙ったかのようにカズの頭へ行き着いた。信じられないほどあっけなく、先制点が生まれた。
勝点5でこの試合を迎えた日本は、勝てば無条件で本大会出場が決まる。一方のイラクは、仮に日本に勝ったとしても、同時進行している他会場の結果次第という状況だった。望みはかなり薄く、このゴールで集中力が切れてもおかしくなかった。
しかし、彼らは諦めなかった。
「本大会出場を逃したらムチ打ち刑」
最終戦を前に、イラク側からはこんな情報も流れてきていた。恐怖という名のムチが、彼らのアドレナリンをかきたてたのかもしれない。頑なにゴリ押ししてくるイラクの前に、日本は一方的な劣勢を余儀なくされる。
ただ、日本には大きな味方がいた。ムーメンターラーという名の、黒い服を着た救世主だった。このスイス人のレフェリーは、勝矢がラディを体当たりでストップしても笛を吹かず、カズが倒れれば即座にFKをプレゼントしてくれた。イラクを入国させたくないという米国組織委員会の意向を受けたのか、彼は徹底して日本びいきの笛を吹いた。
48分、ムーメンターラー主審は、オフサイドの判定でオムラムのゴールを取り消してくれた。だが、これが彼にできた最後の手助けだった。55分、右サイドのクロスボールからラディに同点ゴールを許すと、それからは目を覆いたくなる瞬間の連続だった。
前半、イラクは“ラモス番”の選手を置いていたが、後半からは攻撃の人数を増やしてきた。CBのシュナイシェルも前線に飛び出してくる。森保、吉田の動きが落ちてきたこともあり、日本が最終ラインでクリアしたボールを、ことごとくイラクに拾われてしまう。
60分、オフト監督は長谷川に代えて福田を投入したが、試合の流れはまったく変わらなかった。
それでも70分、味方のピンチと引き換えの自由を享受していたラモスが、ようやくビッグプレーを見せる。イラクのDFが倒れ、彼らの集中が一瞬途切れたスキをついて、絶妙のタテパスをゴール前へ。抜け出した中山は、右ポストぎりぎりにグラウンダーのシュートを突き刺した。
これで決まった――ほとんどの日本人がそう確信したゴールだった。
85分、勝矢が振りきられる。堀池がクリア。88分、また左サイドから崩される。松永が辛くもディフレクト。心臓が凍りつきそうなシーンが続いた。しかし、それは逆に、間もなく訪れる歓喜を、より大きなものにしてくれるはずだった。
遅々として進まなかった秒針が、ようやく90回目の周回を終えた……。
「選手たちには、素晴らしかったと言ってやりたい」
呆けたような空気が漂う中、目を充血させたオフト監督は記者会見を締めくくった。
選手たちはよく頑張った。それは間違いない。でも、だから悲しい。力以上のものを出し切ってなお、日本は力不足だった。これが、夢を実現させるはずだったカタールの3週間が残した結論だった。――
九分九厘、99パーセント、限りなく実現に近づいていた日本の夢は、またしても、そして突然、消えた……。
滑り出しはいたって快調だった。6分、長谷川のドリブル、中山のクロス、長谷川のシュートと3つのプレーが流れるように連なり、バーを叩いたボールは、まるで狙ったかのようにカズの頭へ行き着いた。信じられないほどあっけなく、先制点が生まれた。
勝点5でこの試合を迎えた日本は、勝てば無条件で本大会出場が決まる。一方のイラクは、仮に日本に勝ったとしても、同時進行している他会場の結果次第という状況だった。望みはかなり薄く、このゴールで集中力が切れてもおかしくなかった。
しかし、彼らは諦めなかった。
「本大会出場を逃したらムチ打ち刑」
最終戦を前に、イラク側からはこんな情報も流れてきていた。恐怖という名のムチが、彼らのアドレナリンをかきたてたのかもしれない。頑なにゴリ押ししてくるイラクの前に、日本は一方的な劣勢を余儀なくされる。
ただ、日本には大きな味方がいた。ムーメンターラーという名の、黒い服を着た救世主だった。このスイス人のレフェリーは、勝矢がラディを体当たりでストップしても笛を吹かず、カズが倒れれば即座にFKをプレゼントしてくれた。イラクを入国させたくないという米国組織委員会の意向を受けたのか、彼は徹底して日本びいきの笛を吹いた。
48分、ムーメンターラー主審は、オフサイドの判定でオムラムのゴールを取り消してくれた。だが、これが彼にできた最後の手助けだった。55分、右サイドのクロスボールからラディに同点ゴールを許すと、それからは目を覆いたくなる瞬間の連続だった。
前半、イラクは“ラモス番”の選手を置いていたが、後半からは攻撃の人数を増やしてきた。CBのシュナイシェルも前線に飛び出してくる。森保、吉田の動きが落ちてきたこともあり、日本が最終ラインでクリアしたボールを、ことごとくイラクに拾われてしまう。
60分、オフト監督は長谷川に代えて福田を投入したが、試合の流れはまったく変わらなかった。
それでも70分、味方のピンチと引き換えの自由を享受していたラモスが、ようやくビッグプレーを見せる。イラクのDFが倒れ、彼らの集中が一瞬途切れたスキをついて、絶妙のタテパスをゴール前へ。抜け出した中山は、右ポストぎりぎりにグラウンダーのシュートを突き刺した。
これで決まった――ほとんどの日本人がそう確信したゴールだった。
85分、勝矢が振りきられる。堀池がクリア。88分、また左サイドから崩される。松永が辛くもディフレクト。心臓が凍りつきそうなシーンが続いた。しかし、それは逆に、間もなく訪れる歓喜を、より大きなものにしてくれるはずだった。
遅々として進まなかった秒針が、ようやく90回目の周回を終えた……。
「選手たちには、素晴らしかったと言ってやりたい」
呆けたような空気が漂う中、目を充血させたオフト監督は記者会見を締めくくった。
選手たちはよく頑張った。それは間違いない。でも、だから悲しい。力以上のものを出し切ってなお、日本は力不足だった。これが、夢を実現させるはずだったカタールの3週間が残した結論だった。――