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「痺れた」「正直、頭に来た」恩師が忘れられない"ふたつの思い出”【室屋成のルーツ探訪/中編】

カテゴリ:Jリーグ

白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

2020年04月23日

室屋vs武藤。マッチアップの結末は…

室屋の恩師のひとりである神川氏。明大時代にはこのSBに貴重なアドバイスを送っている。写真協力:神川明彦

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 神川の頭の中にはひとつのプランがあった。在学中に室屋をプロに行かせるという計画が。だから、彼が2年生になるタイミングで、神川は声をかけた。

「『ここまで学校の単位はしっかり取れているが、そもそも在学中にプロになるイメージはあるのか』と訊いたら、室屋は『なりたいです』と。(明治大学出身の)長友(佑都/現ガラタサライ)に続いていかないといけないレベルの選手だったので、『そうだよな』と返しました。ただ、指定校推薦で入ってきた長友と違って、室屋はスポーツ推薦。そこがひとつのハードルでしたが(スポーツ推薦の場合、4年間のサッカー部在籍が入学条件のひとつ)、『君が望むなら俺は学校に掛け合う』と。説得材料になり得るのが単位数だったので、そこは『しっかり頼む』と室屋に言ったのを覚えています」

 プロ転向の話はあとで述べるとして、神川には忘れられない思い出がふたつある。ひとつは13年6月9日のアミノバイタルカップ決勝、明治大が慶應大を3-0で下した試合での室屋のパフォーマンスだ。

「慶應大の左サイドは当時3年生の武藤(嘉紀/現ニューカッスル)。中央大を7-5で下した準決勝ではハットトリックを決めるなど、まあ凄かった。彼を抑えないと勝てないので、決勝の前に室屋を呼んでこう言ったんです。『お前の対面は武藤だぞ、絶対に抑えろと。彼さえ封じ込めれば勝てるから』と。そうしたら気合いのこもった声で『はい‼』と返してくれて、試合前からすでにゾーンに入っている感じでした」

 その試合、室屋は武藤に仕事らしい仕事をさせなかった。結果は3-0で明治の勝利。優勝決定後、慶應大の須田芳正監督から「今日の室屋は素晴らしかった」と称賛された神川は自然と笑顔になった。

「痺れましたね。そして改めて確信しました、凄い選手だって。相手が大きければ大きいほど燃える。基本的にびびらないんですよ。緊張という言葉は室屋に当てはまらない。本当によくやってくれました」

 もうひとつの思い出が、同年7月の出来事。天皇杯の東京都予選で東京ヴェルディユースと当たった時のことだ。

「その試合で室屋をスタメンから外したんです。当時は小川大貴(現ジュビロ磐田)、髙橋諒(現・松本山雅FC)も含め3人でサイドバックを回していましたが、ユニバーシアードから戻ってきたばかりの小川を『それでもキャプテンだから』という理由でスタメン起用しました。で、負けたんですよ、0-1で。勝ち負けに関わらず、僕は試合後にスタッフやベンチメンバーとも『お疲れ様』という気持ちを込めて必ず握手をするんですが、室屋はそれを拒否するような感じで私から目を逸らして……」

 正直、神川は頭に来ていた。しかし、態度に出すわけにはいかない。とはいえ、このまま放置するのもよくないから、その日の最後のミーティングで神川は選手たちに言った。

「今日は残念だったけど、切り替えよう。ただ、ひとつだけ許せないことがあった。さっきみんなと握手した時、ひとりだけ私から目を逸らす選手がいた。おそらくその選手はなぜ使ってくれないんだとか、そういう想いがあったのかもしれないけど、態度に出すのはおかしい」

 何事も他人のせいにするような真似だけはしてほしくない。まずは自分自身にベクトルを向け、先発できるだけの力がなかったと反省すべきと、そういうメッセージを室屋に送ったのである。
 
 その半年後、神川は室屋の成長を目の当たりにすることになる。

 14年3月に開催されたデンソーカップ宮崎大会で全日本大学選抜の監督だった神川は、東海北信越選抜チームとの1回戦で室屋をスタメンから外した。コンディションの良し悪しで判断した結果、湯澤聖人(現アビスパ福岡)を右SBで先発させたのだ。

 しかし、その湯澤が後半途中に足をつってしまう。ちょっとしたアクシデントに見舞われた神川は、すぐさま室屋をピッチに送り込んだ。すると──。

「半端ないプレーを見せてくれました。びっくりしましたよ。ボールを奪うし、オーバーラップを仕掛けるし、自陣にすぐ戻るし。感動しちゃいましたよ」

 試合後、神川は室屋に単刀直入に訊いた。「今日は凄かったけど、どうした?」と。返答は以下のとおりだった。

「スタメンから外れてめちゃくちゃ悔しかったです。でも、そこでふて腐れても意味がないので、監督がどんな指示を出しているのかをなるべく近くで聞こうと思いました。自分が出た時に何をすべきか、それをずっと考えつつ整理していました」

 神川が次の試合から室屋をレギュラーにしたのは言うまでもない。そして神川は、この時思うのだ。

「もはや大学レベルの選手ではない。プロでも十分に通用する」

<後編に続く。文中敬称略>

※『サッカーダイジェスト』2019年8月22日号より転載。一部加筆・修正。

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