名将の器を感じさせるラウール。マドリーの未来は明るい【現地発コラム】

カテゴリ:連載・コラム

エル・パイス紙

2020年01月15日

マドリーの伝統を誰よりも重んじる

 ラウールは泥臭いプレイヤーだった。ボールタッチを一つ加味して表面的なカッコよさを求めるよりも、直線的に効率的にゴールを目指した。その一方で、常にハードワークが要求されるマドリーの選手としての責務を自覚し、さらにもうひとつ上の努力を実践することを務めた。

 彼はよく「私にはブラジル人的というよりもドイツ人的なところがある」と語っていた。我々フットボールに生きる人間からすればすぐに合点のいく自己評価だ。

 マドリーは常に選手たちが主役を演じ続けたクラブだ。その時代の一線級のタレントをかき集めて常勝軍団を築き上げてきた。しかしファンは同時にどんなにクオリティーやセンスに優れた選手であっても、戦う姿勢を見せることを求めた。

 現役時代のラウールはそうした周囲が追い求めるマドリーの選手としての理想像を誰よりも具現化した人物だった。何をすればマドリディスモを失望させ、何をすればマドリディスモを歓喜させるかを知っていた。監督としてそのイズムの実践を選手たちに限界まで要求できる人物は、彼の右に出る者はいないはずだ。
 
 強い個が結集し、なおかつ各自の努力の土台があってチームの、そしてクラブの成功が生まれる。そこにあるのはチーム、クラブファーストの精神だ。それはサンティアゴ・ベルナベウ会長の時代から育まれてきたマドリーの不変の理念だ。ピラミッド化すると一番上にクラブが位置し、続いてチーム、そして最後に選手の順となる。

 しかし近年は、時代の流れや趨勢も重なって、選手たちの力が増大している。それはその不変のはずのヒエラルキーをも脅かすまでになっている。

 クラブのそうした伝統を誰よりも重んじるのがラウールという人間だ。現役時代の彼は常にチーム、クラブファーストの精神を持ってプレーを続けてきた。もちろんトップチームの監督に就任すれば、真っ先に同じことを選手たちに要求するだろう。そのために誰が犠牲になろうとも、周囲から圧力がかかろうと関係ない。自らが信じてやまないマドリディスモの実現のために花崗岩のような堅固な意志を持って最後までやり遂げるはずだ。

 バルセロナにとってのジョゼップ・グアルディオラ、アトレティコ・マドリーにとってのディエゴ・シメオネがそうであるように、ラウールはマドリディスモのスピリットをそのまま体現できる人物だ。

 今はとにかく現監督のジネディーヌ・ジダンをリスペクトしよう。そして将来のことを考えるなら、ラウールを忘れるべきではない。そしてそれこそがマドリーの伝統をリスペクトする最善の方法なのである。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 

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