インザーギを感心させた本田の行動とは――。
「ミステル」
本田はインザーギをそう呼ぶ。イタリアでの監督の一般的な呼び方だ(ミスターのイタリア語での発音)。ミランの現陣容には、かつてインザーギと100試合近くを共にプレーした元チームメイトもいるが、彼らも同じようにミステルと呼ぶ。もう選手仲間ではないという立場の違いを明確にするための線引きだ。
とはいえ、選手だった頃の感覚はまだインザーギの中に鮮明に残っている。だから監督が自分を気にかけてくれることが、どれだけ選手にとって重要かをよく分かっていて、本田にもよく声をかける。
「行け、ケイ」
「がんばれ、ケイ」
「その調子だ、ケイ」
こうした日々の会話は本田のイタリア語の上達にも大きく役立っている。テクニックや戦術に関する言葉なら、もうほとんど理解できる。ほんの数か月前は、練習でも度々蚊帳の外にいたのが傍からも見て取れたが、それに比べたら著しい進歩だ。
あとはチーム内で飛び交うジョークが分かるようになれば、怖いものなしだろう。ただ言葉が分からなくても、本田が笑いの中心となることはある。インザーギは本田が分かりやすいように、まるで小さな子供に諭すようにゆっくり、できるだけ簡単な言葉で説明することがある。それを周りで聞いている選手たちは、インザーギがまるで新米パパのようだと、だんだんおかしくなって思わず笑い出すのだ。
インザーギだけでなくミラネッロのスタッフすべてが感銘を受けたのが、本田の探究心だ。本田はどんな小さなことでも、きちんと把握したがる。練習のやり方から、ミランラボ(ミランのフィジカル/メディカル部門)で管理されているデータまで、上達につながることには、彼は漏れなく興味を示す。
インザーギやスタッフを捕まえ、どうしたらもっと良いパフォーマンスができるか、直接教えを請うことも度々だ。この謙虚で真摯な態度には、インザーギも一発でノックアウトされてしまった。
監督やスタッフに全幅の信頼を寄せ、リスペクトしているからこそできることだろう。指示によく従う本田を「監督のイエスマン」などと悪く言う者もいるが、私はそうは思わない。本田は闇雲に従っているのではない。自分の利益になると判断しているからこそ指示を守るのだ。
「本田はこれまであまりにも過小評価されすぎていた。私は本田のような選手を持てて幸運だ。多くの監督がなぜ彼を外すことができないか、その理由が分かった」
プレシーズンのアメリカツアーから戻り、本田の印象を聞かれたインザーギは開口一番、こう言った。本田はみずからの力で信頼を勝ち取ったのだ。
さらに、インザーギを感心させた出来事がある。それは代表戦で日本に帰国していた本田が、予定よりも早い飛行機でミラノに戻ってきたことだ。小さなことではあるが、監督の心をつかむには大きな大きな行動だった。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト)
協力・翻訳:利根川晶子
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。
本田はインザーギをそう呼ぶ。イタリアでの監督の一般的な呼び方だ(ミスターのイタリア語での発音)。ミランの現陣容には、かつてインザーギと100試合近くを共にプレーした元チームメイトもいるが、彼らも同じようにミステルと呼ぶ。もう選手仲間ではないという立場の違いを明確にするための線引きだ。
とはいえ、選手だった頃の感覚はまだインザーギの中に鮮明に残っている。だから監督が自分を気にかけてくれることが、どれだけ選手にとって重要かをよく分かっていて、本田にもよく声をかける。
「行け、ケイ」
「がんばれ、ケイ」
「その調子だ、ケイ」
こうした日々の会話は本田のイタリア語の上達にも大きく役立っている。テクニックや戦術に関する言葉なら、もうほとんど理解できる。ほんの数か月前は、練習でも度々蚊帳の外にいたのが傍からも見て取れたが、それに比べたら著しい進歩だ。
あとはチーム内で飛び交うジョークが分かるようになれば、怖いものなしだろう。ただ言葉が分からなくても、本田が笑いの中心となることはある。インザーギは本田が分かりやすいように、まるで小さな子供に諭すようにゆっくり、できるだけ簡単な言葉で説明することがある。それを周りで聞いている選手たちは、インザーギがまるで新米パパのようだと、だんだんおかしくなって思わず笑い出すのだ。
インザーギだけでなくミラネッロのスタッフすべてが感銘を受けたのが、本田の探究心だ。本田はどんな小さなことでも、きちんと把握したがる。練習のやり方から、ミランラボ(ミランのフィジカル/メディカル部門)で管理されているデータまで、上達につながることには、彼は漏れなく興味を示す。
インザーギやスタッフを捕まえ、どうしたらもっと良いパフォーマンスができるか、直接教えを請うことも度々だ。この謙虚で真摯な態度には、インザーギも一発でノックアウトされてしまった。
監督やスタッフに全幅の信頼を寄せ、リスペクトしているからこそできることだろう。指示によく従う本田を「監督のイエスマン」などと悪く言う者もいるが、私はそうは思わない。本田は闇雲に従っているのではない。自分の利益になると判断しているからこそ指示を守るのだ。
「本田はこれまであまりにも過小評価されすぎていた。私は本田のような選手を持てて幸運だ。多くの監督がなぜ彼を外すことができないか、その理由が分かった」
プレシーズンのアメリカツアーから戻り、本田の印象を聞かれたインザーギは開口一番、こう言った。本田はみずからの力で信頼を勝ち取ったのだ。
さらに、インザーギを感心させた出来事がある。それは代表戦で日本に帰国していた本田が、予定よりも早い飛行機でミラノに戻ってきたことだ。小さなことではあるが、監督の心をつかむには大きな大きな行動だった。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト)
協力・翻訳:利根川晶子
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。