ジーコの教えを守り続け、真摯に次世代へ受け継いでいく鹿島の姿勢。
西川が輝いた夜、鹿島もまた明るい未来を垣間見せた。
3連覇を達成したころに比べると、メンバーは大きく若返った。高卒2、3年目の若手がチームの半数近くを占め、19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビだろう。
だが、駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない。
かつての鹿島は、百戦錬磨のベテランたちに守られて、若手が伸びていくというサイクルがあった。だが今は、荒削りな原石だらけ。その中でいぶし銀が独特の輝きを放っている。小笠原だ。
小笠原は文字通り、背中で若者たちを教育している。敵が加速しそうになると真っ先に現場に駆けつけ、激しく腰から当たって勢いをばっさりと断ち切る。弱気になって下がりかけた最終ラインに、大丈夫だ、上げろ、と身振りで鼓舞する。
出場時間は短いが、本山も効いていた。終盤、曽ヶ端がボールを持ち、ゲームが途切れた瞬間、彼だけがするすると前線に動き出し、そこからチャンスが生まれたのだ。
鹿島というチームは、Jリーグ開幕から22年が経った今も、ジーコの教えを守り続けている。それはベテランたちが若手時代に教わったことを、真摯に次世代に受け継いでいるからだ。
「いまどきの若いもんは……」と愚痴をこぼしている人たちは、鹿島の姿勢を見習うべきだろう。
この日、鹿島は杉本太郎をデビューさせた。昨年のU-17ワールドカップでも活躍した、この世代最高のタレント。
杉本はまだ線が細く、チャンスに絡む場面はあったものの、浦和の脅威にはならなかった。対面の槙野にも格の違いを見せつけられた。だが、首位との一戦、しかも1対1の緊迫した場面で大事なルーキーを使うところに鹿島の見識が感じられる。
この杉本の起用について訊ねると、トニーニョ・セレーゾ監督がいいことを言っていた。
「杉本は自分のためではなく、チームのために取り組む自己犠牲の精神を持っている。弱い相手に活躍するのは、誰でもできる。強い相手と戦ってこそ、能力が分かるんだ。意欲が枯れかけたベテランを使うなら、意欲や願望の強い若手を使う方が明るい未来が待っている。たとえ失敗したとしても」
T・セレーゾ監督によると、ブラジルには「ボールは止まらない」という格言があるのだそうだ。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
真摯に走り続ける限り、近い将来、鹿島はまたタイトルを手にするだろう。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
3連覇を達成したころに比べると、メンバーは大きく若返った。高卒2、3年目の若手がチームの半数近くを占め、19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビだろう。
だが、駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない。
かつての鹿島は、百戦錬磨のベテランたちに守られて、若手が伸びていくというサイクルがあった。だが今は、荒削りな原石だらけ。その中でいぶし銀が独特の輝きを放っている。小笠原だ。
小笠原は文字通り、背中で若者たちを教育している。敵が加速しそうになると真っ先に現場に駆けつけ、激しく腰から当たって勢いをばっさりと断ち切る。弱気になって下がりかけた最終ラインに、大丈夫だ、上げろ、と身振りで鼓舞する。
出場時間は短いが、本山も効いていた。終盤、曽ヶ端がボールを持ち、ゲームが途切れた瞬間、彼だけがするすると前線に動き出し、そこからチャンスが生まれたのだ。
鹿島というチームは、Jリーグ開幕から22年が経った今も、ジーコの教えを守り続けている。それはベテランたちが若手時代に教わったことを、真摯に次世代に受け継いでいるからだ。
「いまどきの若いもんは……」と愚痴をこぼしている人たちは、鹿島の姿勢を見習うべきだろう。
この日、鹿島は杉本太郎をデビューさせた。昨年のU-17ワールドカップでも活躍した、この世代最高のタレント。
杉本はまだ線が細く、チャンスに絡む場面はあったものの、浦和の脅威にはならなかった。対面の槙野にも格の違いを見せつけられた。だが、首位との一戦、しかも1対1の緊迫した場面で大事なルーキーを使うところに鹿島の見識が感じられる。
この杉本の起用について訊ねると、トニーニョ・セレーゾ監督がいいことを言っていた。
「杉本は自分のためではなく、チームのために取り組む自己犠牲の精神を持っている。弱い相手に活躍するのは、誰でもできる。強い相手と戦ってこそ、能力が分かるんだ。意欲が枯れかけたベテランを使うなら、意欲や願望の強い若手を使う方が明るい未来が待っている。たとえ失敗したとしても」
T・セレーゾ監督によると、ブラジルには「ボールは止まらない」という格言があるのだそうだ。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
真摯に走り続ける限り、近い将来、鹿島はまたタイトルを手にするだろう。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)