わずかな傷口を抉り続けること
ロシアW杯、日本もサイドに活路に見出している。とりわけ、乾貴士を中心にした左サイドは、敵陣で火の手を上げている。
乾は独力でのドリブルスキルもさることながら、コンビネーション能力がスペインでのプレーによって習熟。大迫勇也、香川真司、長友佑都、柴崎岳らと連係することで拠点を作り、これによって相手の陣形を乱し、アドバンテージを取れた。
乾は独力でのドリブルスキルもさることながら、コンビネーション能力がスペインでのプレーによって習熟。大迫勇也、香川真司、長友佑都、柴崎岳らと連係することで拠点を作り、これによって相手の陣形を乱し、アドバンテージを取れた。
また、右サイドで注目したいのが、酒井宏樹の健闘である。サイドが重要な局地戦になるのは相手も同じで、最も強力なアタッカーを注ぎ込んできた。酒井はそれに真っ向から挑み、互角以上の戦いを演じている。
コロンビアのイスキエルドには何の仕事もさせなかったし、セネガルのマネ、ベルギーのカラスコのような一流アタッカーにも怯んでいない。酒井が局面で小さな勝利を得たことが、全体の局面を有利に繋がったのだ。
試合前にチーム一人ひとりを比較し、どっちが有利か、と探る分析というのは、実はあまり意味がない。相手の陣地のどこかに火の手を上げられたら、そこを足掛かりに、幾らでも戦局は有利に動かせるからだ。
ダメージを与えるには、わずかな傷口で十分で、そこを抉ればいい。無論、敵も同じことを考えるわけだが……。
その駆け引きにこそ、フットボールの醍醐味はあるのだ。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。