全国スポーツ紙『L’Equipe』のインタビューに登場し、現地入り後の記者会見でもコメントに非の打ちどころがなかったエムバペ。語りが素晴らしすぎたのだ。なんとそれが一部の反感（嫉妬？）を買ってしまった。それゆえ本人は、「今後インタビューは受けないことにして、ピッチに集中する」と宣言、ミックスゾーンの応対さえ拒否してしまったのだ。
 
　ところが！　さすがにアルゼンチン戦の後は、マイクの前に立たざるを得なかった。グリエーズマンに「フランス万歳、共和国万歳！」とチャチャを入れられたものの、エムバペは「嬉しいよ。チームメイトたちと美しいことができたと思う」と晴れやかな笑顔。インタビュー拒否については、「単に代表チームのスポークスマンになりたくなかっただけだよ。僕の役割じゃないからね。僕の役目はピッチでプレーすること。それだけさ。スポークスマン役はリーダーたちがやってくれる。でも今日は報われたよ」と結局は見事な弁舌ぶりを見せ、スタジオから喝采を浴びた。
 
　その後の公式インタビューでも、「ワールドクラスのパフォーマンスでしたね」の質問に「嬉しいよ」と素直に笑い、「（リオネル・）メッシを敗退に追い込んだから、次はクリスチアーノ（・ロナウド）を敗退に追い込む？」と聞かれると、「それは僕の問題じゃないんだ。グループでソリッドに団結して戦い、連帯し合うことが大事だと思う。（エディンソン・）カバーニだろうが（ルイス・）スアレスだろうがロナウドだろうが同じだよ」と明快だった。

 

　この怪童は、言わば“太陽系”だ。人間的な魅力、自然な明るさがどうしても人びとを惹きつけてしまう。フランス人のほとんどはエムバペの大爆発を待望していた、といっても過言ではないだろう。おそらく国民の人気は急速に高まっており、アルゼンチン戦を境に代表チームのナンバー１に躍り出たのではないだろうか。
 
　ただ主将のユーゴ・ロリスは、試合後のインタビューでエムバペについて問われ、「（太陽に一気に迫りすぎて）翼を燃やされないようにしないと」とやんわり釘を刺した。とはいえエムバペもそんなことは先刻承知だろう。フランス発のエムバペ・フィーバーは、これから世界に拡散していくはずだ。
 
　パリ・サンジェルマンのチームメイト、ダニエル・アウベスは、さっそくSNSでこう発信した。
 
「ドナテロ、おめえ、スピードあるな」
 
　映画『ミュータント・タートルズ』のキャストであるドナテロ。この亀の忍者が、定着しているエムバペの愛称だ。
 
　引いて守る相手なら難しいが、フランス人は忍者ドナテロの華麗な“手裏剣”が大好きだ。ウルグアイ戦でもきっと、炸裂させると信じている。
 
文●結城麻里