情け無用の采配にもチームに不和が生じなかった理由とは?

セスク(右)やテリーといった不満分子になりかねないこれまでの主力選手たちに対しても、冷徹な決断を下したコンテ(中央)。そのスタンスは一見すると不和を呼びそうだったが……。 (C) Getty Images
「いける」という指揮官の直感からきた3-4-3システム導入は、ものの見事に的中する。
それまで不用意な飛び出しも目立っていたD・ルイスは、両脇にガリー・ケイヒルとセサル・アスピリクエタという“守備の人”を従えたことで、3バックの中央で堅実な守りを見せるようになった。
そして攻撃的な意欲が旺盛なM・アロンソは左ウイングバックで定位置を確保。さらに逆サイドでは、クロスやシュートの精度に難があったヴィクター・モーゼスが、ウイングバックに配置された途端に、スタミナとフィジカルを生かせるようになるという嬉しい誤算もあった。
そしてこのシステム変更における最大の収穫が、アザールの「解放」だ。ウイングバックのフォローを得たことで、アウトサイドでの守備の負担が減った背番号10は、前線中央に流れてCFのD・コスタとより近い位置で、攻撃に自由に絡めるようになったのだ。
新システムを馴染ませていく行程では、コンテ流の荒療治が効果的に働いた。
イタリア人指揮官は、昨年4月に契約を締結するためロンドンを訪れた際に、「並大抵の努力では復活は難しいと覚悟してくれ」と選手たちに告げ、実際に就任後も根を上げる選手もいたと言われるほど執拗な練習を課し、戦術を身体に叩き込んでいったのである。
選手起用に関しても情けは無用だ。たとえ、その理由が故障であれ、身内の不幸であれ、欠場でポジションを譲ることになれば、主将のジョン・テリーや過去2シーズンに渡って中枢を担ってきたセスク・ファブレガス、ウィリアンといった面々でさえもベンチで出番に備えるしかなかった。
一連の振る舞いや采配は、一つ間違えば主力から不満の声が漏れかねない。しかし、結果として大きな不満は出なかった。というのも、チームが結果を残していく過程でもっとも努力を重ねているのが、指揮官であることを選手たちは知っていたからだ。
チェルシーの練習場で「一番のハードワーカーは?」とスタッフに尋ねれば、「監督」という答えが返ってくる。まだ8位だった昨年の9月末、「監督室にベッドが欲しい」と苦笑していたコンテは、トレーニングの様子を収めた映像にまで目を通して持ち駒の長所と短所を見極め、攻守のバランスを失わない戦い方を実現すべく分析を重ねたのである。
加えて、試合でもチームと一緒に戦うタイプの監督でもある。コンテはテクニカルエリアで、スーツを着てピカピカの革靴を履いていても、闘志を剥き出しにして叫び続けてきた。「全ての試合で一緒にプレーしてきたような気がする」という優勝決定後の発言に、異論を唱える選手はいないはずだ。
優勝決定の前日に「選手が自分を信頼して汗を流し、力を出し切ってくれたことが個人的には今シーズン最大の成果だ」と振り返っていた新任監督は、誰よりも努力を重ねて、チェルシーでの1年目の戦いでプレミア制覇という成果を残したのである。
しかし、そんな夢を叶えてもなお、気を緩めないのが、やはりコンテである。本能と努力でチームを率いてきた指揮官は、疲れ切った表情でもWBA戦を終えた直後に、「FAカップも優勝するしかない」と、シーズン最後のビッグマッチ(決勝は5月28日で相手はアーセナル)を見据えて締めくくったのだ。
文:山中忍
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。
それまで不用意な飛び出しも目立っていたD・ルイスは、両脇にガリー・ケイヒルとセサル・アスピリクエタという“守備の人”を従えたことで、3バックの中央で堅実な守りを見せるようになった。
そして攻撃的な意欲が旺盛なM・アロンソは左ウイングバックで定位置を確保。さらに逆サイドでは、クロスやシュートの精度に難があったヴィクター・モーゼスが、ウイングバックに配置された途端に、スタミナとフィジカルを生かせるようになるという嬉しい誤算もあった。
そしてこのシステム変更における最大の収穫が、アザールの「解放」だ。ウイングバックのフォローを得たことで、アウトサイドでの守備の負担が減った背番号10は、前線中央に流れてCFのD・コスタとより近い位置で、攻撃に自由に絡めるようになったのだ。
新システムを馴染ませていく行程では、コンテ流の荒療治が効果的に働いた。
イタリア人指揮官は、昨年4月に契約を締結するためロンドンを訪れた際に、「並大抵の努力では復活は難しいと覚悟してくれ」と選手たちに告げ、実際に就任後も根を上げる選手もいたと言われるほど執拗な練習を課し、戦術を身体に叩き込んでいったのである。
選手起用に関しても情けは無用だ。たとえ、その理由が故障であれ、身内の不幸であれ、欠場でポジションを譲ることになれば、主将のジョン・テリーや過去2シーズンに渡って中枢を担ってきたセスク・ファブレガス、ウィリアンといった面々でさえもベンチで出番に備えるしかなかった。
一連の振る舞いや采配は、一つ間違えば主力から不満の声が漏れかねない。しかし、結果として大きな不満は出なかった。というのも、チームが結果を残していく過程でもっとも努力を重ねているのが、指揮官であることを選手たちは知っていたからだ。
チェルシーの練習場で「一番のハードワーカーは?」とスタッフに尋ねれば、「監督」という答えが返ってくる。まだ8位だった昨年の9月末、「監督室にベッドが欲しい」と苦笑していたコンテは、トレーニングの様子を収めた映像にまで目を通して持ち駒の長所と短所を見極め、攻守のバランスを失わない戦い方を実現すべく分析を重ねたのである。
加えて、試合でもチームと一緒に戦うタイプの監督でもある。コンテはテクニカルエリアで、スーツを着てピカピカの革靴を履いていても、闘志を剥き出しにして叫び続けてきた。「全ての試合で一緒にプレーしてきたような気がする」という優勝決定後の発言に、異論を唱える選手はいないはずだ。
優勝決定の前日に「選手が自分を信頼して汗を流し、力を出し切ってくれたことが個人的には今シーズン最大の成果だ」と振り返っていた新任監督は、誰よりも努力を重ねて、チェルシーでの1年目の戦いでプレミア制覇という成果を残したのである。
しかし、そんな夢を叶えてもなお、気を緩めないのが、やはりコンテである。本能と努力でチームを率いてきた指揮官は、疲れ切った表情でもWBA戦を終えた直後に、「FAカップも優勝するしかない」と、シーズン最後のビッグマッチ(決勝は5月28日で相手はアーセナル)を見据えて締めくくったのだ。
文:山中忍
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。