“キャプテン”酒井高徳に可能性を感じた、ファンとのエピソード

カテゴリ:連載・コラム

中野吉之伴

2016年11月25日

ただ声を聞くだけでなく、現状を説明し、思いを伝えた酒井。

キャプテンとしての初戦はアウェーで好調ホッフェンハイムに2-2の引き分け。相手の猛攻を凌いだ姿に、これまでとの変化が少し感じられたが、本当に効果が確かめられるのは、これからだろう。 (C) Getty Images

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 酒井の人となりを表わすエピソードがある。
 
 第4節のフライブルク戦を0-1で落とした後のことだった。試合後、アウェーまで帯同してくれたファンに挨拶に行った選手だが、不甲斐ない試合内容と結果に、激しいブーイングが起こった。
 
 多くの選手がどうしたら良いか分からず、距離をとって状況が収まるのを見守っているなか、酒井はGKレネ・アドラーらとともに、ファンとの話し合いに応じていた。
 
「味方の選手に『来い』という風に言われたので、ファンの方に少し落ち着くように話をしました。
 
 こういうシチュエーションはもちろん、ファンには申し訳ない。ただ、僕らも僕らでやっぱり不満だし、チーム全体、あるいはクラブ全体の問題だから、ファンが信じてくれないと僕たちも頑張れない。
 
 不甲斐ない試合をしてはいるのは確かだけど、自分たちなりに気持ちを見せて試合をしている、ということは言って……。
 
『じゃあ、どうしてファンは団結して来ているのに、何人かの選手は(試合後)すぐ(ロッカールームの)中に入って、何人かの選手は外にいるんだ? 話している奴がいるのに、何で(数人で)固まっている奴らがいるんだ?』と言われたので、『それは、俺も良くないと思う』と。
 
『じゃあ、呼んで来い』って言われたんですが……。『でも、呼んだところで罵倒しかしないでしょ?』ということを話しました。そういうのは必要ないし、みんなが同じ方向を向くことが一番大事だと、ファンには伝えました」
 
 激高するファンを前にしても、ただ話を聞くだけではなく、誠実に自分たちがやるべきことを考え、真っ直ぐに向き合い、真摯に思いを伝える。その姿を、ファンも知っている。
 
 ブレない強さ。それこそが、最下位に苦しむクラブに一番必要なものである。
 
 酒井を中心に置くことで、どんな相乗効果が生まれるのだろうか。ここからの、ハンブルクの巻き返しに期待したい。
 
文:中野 吉之伴
 
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/ドイツ・フライブルク在住の指導者。2009年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの研修を経て、フライブルガーFCでU-16やU-18の監督、FCアウゲンのU-19でヘッドコーチなどを歴任。2016-17シーズンからFCアウゲンのU-15で指揮を執る。1977年7月27日生まれ、秋田県出身。
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