そこで岩田は「このままでいいのか」と日々、自問自答していた。焦りはなかったというが、それ以上に「サッカー選手の自分が試合に出ないことの悔しさ」が湧き上がってきて仕方がなかったようだ。

「あの頃の僕は『純粋にサッカーがしたい』という思いがすごく強かった。慣れない異国で子どもたちの面倒を見てくれて、一生懸命、ご飯を作って家事をしてくれる妻の姿を間近で見て、『妻も子どもたちもこんなに頑張っているのに、自分は試合に出られない。本当に悔しいし、情けない』という感情が湧いてきて仕方がなかった。何とか支えてくれる家族に恩返しできるようにしたいという一心でやっていました」と本人は偽らざる本音を吐露する。

　迎えた24年５月。セルティック側からは「残ってほしい」という要望もあったが、岩田の心は移籍に傾いていた。実際に複数クラブからオファーも届いた。先々の成功を考えれば、欧州１部リーグに行くのがベターではあったが、彼はバーミンガム・シティからの誘いを受けることを決めた。
 

「バーミンガムはシーズンオフに入ってすぐにオファーしてくれて、移籍最終日の８月31日まで根気強く待ち続けてくれました。『こんなに思ってくれるなら行きたい』と気持ちが固まり、すぐに荷物をまとめて新天地に向かうことになりました。３部だから、というネガティブな気持ちはまったくなくて、家族に頑張っている姿を見せたいというのが、あの時の一番の原動力でしたね。

　それに、監督のクリス・デービスが以前、ロジャーズ監督が最初に率いたセルティックでコーチを務めていて、直近はトッテナムのアンジェの下でコーチをしていた人物だったことも大きかった。僕のことを２人の監督から聞いて『一緒にやれる』と確信を持ってオファーしてくれたということで、僕も安心して行くことができました。

　バーミンガムは、僕が育った大分トリニータがJ３に落ちた時に状況が似ていたことも心が動かされました。もともとプレミアにいた大きな規模のクラブだったのに、３部に落ちてしまって、這い上がろうとしていた。『一緒にプレミアに行きたい』と言われて、J２、J１と上がった当時を思い出しました」

　２カテゴリー昇格の経験者である岩田にとって、バーミンガムとの出会いはある意味、必然だったのかもしれない。ここから彼の新たなキャリアがスタートした。

※第２回終了（全５回）

取材・文●元川悦子（フリーライター）

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