大きなインパクトを残したのは、リーグ最終節のプレストン戦だった。平河は右ウイングバックとして先発出場。相手陣内で何度もドリブルを仕掛けてクロスを供給した。試合後、リアム・マニング監督は平河を手放しで褒めた。

「ユウは素晴らしかった。試合を動かし、そして試合を変える力を持っている。ユウのプレーには、観客を座席から立ち上がらせる凄みがある。

　もともとサッカーは、ボールを前に進めて相手のペナルティエリア近くまで運び、攻撃の糸口を探り出すことが重要になる。ユウには、こうした動きが期待できる。ユウは、見ているだけでワクワクする選手。動きは鋭く、素早い。方向転換も見事だ。来季、彼は本当に重要な選手になるはずさ」

『ブリストル・ライブ』が「チームはシーズン後半戦から３－４－２－１にシステムを変えたが、平河にはこのシステム変更が弊害となった。平河には、シーズン前半戦で採用した４－２－３－１システムの方が合っていた。同システムの右MFや左MFの方が、より快適に見えたからだ」と報じたように、後半戦はシステム変更で持ち味をフルに発揮できなかった。

　それでも、サポーターからの人気は変わらなかった。初ゴールを決めて勝利に貢献したミドルスブラ戦（24年10月）後には、平河の人気が定着。もともとイングランドのサッカーファンは、縦にグイグイ仕掛るアタッカーを好む傾向があり、こうしたプレーを持ち味とする平河も一躍人気となった。24歳のアタッカーがボールを運ぶ度に、サポーターは期待を込めて「ユウーーー」と声援を送った。

　出場機会が不定期になった後半戦でも人気は衰えなかった。主役級のプレーを見せた最終節のプレストン戦では、０－２のビハインドから２－２の同点に追いつき、土壇場でプレーオフ進出を成し遂げた劇的な展開も重なって、試合後には大勢のサポーターがピッチに乱入した。

　平河は、流れ込んできたファンたちに担ぎ上げられ、プレーオフ進出の貢献者として手荒い祝福を受けた。この時の様子を『ブリストル・ライブ』は「平河は、クラウド・サーフィンをしていた」と報道。

　クラウド・サーフィンとは、ロックのライブイベントなどで、観客が他の観客の頭上を泳ぐように移動していくこと。同サイトによると「平河は、クラウド・サーフィンを楽しんでいた」という。
 

　この時の姿は、チーム内でも話題になった。

　シェフィールド・ユナイテッドとのプレーオフ直前、マニング監督は最終節の熱狂を収めた映像と写真を選手たちに見せ、チームの士気を高めた。「いいか、彼らにもう一度、興奮を届けよう」と激を飛ばしたという。その中にクラウド・サーフィン中の平河の写真も含まれていた。その写真がミーティングルームに映し出されると、普段は真面目な彼の性格もあってか、選手たちは大いに盛り上がったという。

　惜しくも、ブリストル・シティはプレーオフ準決勝でシェフィード・Uに敗れ、プレミアリーグ昇格の夢は叶わなかった。平河はホームでの第１戦に先発し、アウェーの第２戦では途中出場したものの、決定的な仕事はできなかった。

　今年２月にブリストル・シティと完全移籍の契約を交わした後、平河はこう話していた。

「ここに来てからしか得られない経験をたくさん積んできた。難しい状況のなかで壁に当たらないと成長できないと思っている。そういう意味で、完全移籍を決めました。プレミアリーグにいつか行きたいっていう気持ちが強い。プレミアリーグに一番近いリーグでプレーできることにも惹かれました。

　イングランドの２部リーグですが、２部の中でも世界で一番レベルが高いと言われてます。ここが自分にとって一番成長できるリーグかなと。そう思って、決めました」

　パリ五輪で味わった悔しさと、イングランドでの奮闘。平河はそのすべてを糧に、一回りも二回りも逞しくなった。

　いよいよ迎えるA代表の舞台。果たして、平河は今回の代表戦でどんなプレーを見せてくれるか。

取材・文●田嶋コウスケ

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